高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから國枝さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は12月10日(火)の「JAZZ NOW」から。
注目タイトル Pick Up
第1楽章を弾き終わったとき、オケから拍手が起こった…宮田大の渾身の名演奏文/長谷川教通
すばらしい録音が登場した。2009年の第9回ロストロポーヴィチ・コンクールで優勝して注目された宮田大だが、あれから約10年。これほど表現力の豊かなチェリストに成長するとは……。エルガーのチェロ協奏曲は何といっても冒頭のソロ。この重音奏法のカデンツァで聴き手の心を鷲づかみにできるかどうかが肝と言ってもいい。ジャクリーヌ・デュ・プレの劇的で内面から湧き出る感情をたたきつけるような演奏は、録音されてから半世紀以上をすぎても色褪せることのない魅力を持っているが、宮田大の弾くカデンツァはそれにも劣らない。大きくうねるように弓を構え、深々としたフォルテシモで重音を奏でるのだ。凄い! その圧倒的な響きは、やがてピアニシモへと沈潜していく。これぞチェロの音! と、いっきにエルガーの音楽に引き込まれてしまう。聴き手だけではない。指揮者もオーケストラもいっしょになってチェロの存在に共鳴し、そこから生み出されるアンサンブルのすばらしさ。チェロに寄り添うささやきから徐々にフォルテに向かう高揚感。オケはトーマス・ダウスゴー指揮するBBCスコティッシュ響だ。ダウスゴーは言う。初めてのリハーサルで第1楽章を弾き終わったとき、オケの全員から拍手が起こった……と。彼らの演奏を聴くと“このチェロのためならベストをつくそう”といった意気込みが伝わってくる。そんな演奏が聴き手の心を震わせないはずがない。
ダウスゴーはデンマーク出身のベテラン指揮者だが、かつてロンドンの王立音楽院ではノーマン・デル・マーに学んでいる。エルガーはもちろんディーリアスなどで味わい深い演奏を聴かせた名指揮者のDNAはダウスゴーにも引き継がれている。第2楽章ではチェロがスピッカートで疾走し、しかも水が流れるように強弱を描き、そこへ思い切ったフラジオレット……まるで水面で光が反射してキラッと輝いているかのようだ。
2019年8月イギリスのグラスゴーでの収録だが、セッション録音らしくきわめて高解像度で、チェロの音色も鮮度高くとらえられている。オケの内声部の動きもクッキリとしていて、ダイナミックレンジにも不足はない。とくにピアニシモの美しさは別格で、これを再生できることがハイレゾ音源を聴く醍醐味。初演から100年になるエルガーのチェロ協奏曲。気品と黄昏に向き合う哀切はエルガーに不可欠の表現だ。宮田大による渾身の名演奏。ストラディヴァリウスが朗々と鳴っている。
このアルバムはマイケル・ティルソン=トーマスとサンフランシスコ響によるアメリカへのリスペクトなのだろうか。混沌とした現代において、アメリカの根っこにある大切なものを見つめようとする行為なのではないだろうか。ティルソン=トーマスは指揮活動の早い段階からアイヴズに取り組んでおり、アイヴズの最上の理解者だと言っていい。すでに1980年代にシカゴ響とコンセルトヘボウ管を振ってアイヴズの交響曲全集を録音しているが、いまやアメリカ屈指の精度を誇るサンフランシスコ響を率いるシェフとして、さらに明確なメッセージを込めたアプローチが見てとれる。アイヴズの音楽にはアメリカの民族音楽から不協和音など前衛的な手法まで、多岐にわたる要素が含まれている。それだけに演奏するのに困難をともなうこともある。しかし、そこはティルソン=トーマス / サンフランシスコ響。アメリカ現代音楽の先駆者へのリスペクトがにじみ出ている。
取り上げる交響曲は第3番と第4番。アルバムの始まりに5曲の賛美歌、そして交響曲第3番と第4番の間に6曲の賛美歌を配置している……このプログラミングこそティルソン=トーマスの意図。オルガンの合唱で歌われる賛美歌が親しみやすく美しい。2曲目の「いつくしみふかき……」など誰もが耳にしたことがあるだろう。開拓時代の宗教的な集会をテーマにした交響曲第3番「The Camp Meeting」につながる序章となっている。
そしてローウェル・メイスンの作曲した「きたのはてなる」など有名な賛美歌が演奏され、交響曲第4番へと続く。オケと合唱にピアノや打楽器など多彩な楽器が入り混じり、混沌とした響きの中にも賛美歌のテーマが頻繁に顔をのぞかせる。かなり前衛的な響きや強烈な衝撃音も加わるが、ティルソン=トーマスは鮮やかな指揮で、弾けるような音の渦を整理しながら、終曲の静謐な「主よ、みもとに近づかん」へと導いていく。交錯する音の中から静かに合唱が浮かび上がる……感動!
モーツァルトの弦楽三重奏によるディヴェルティメント K.563は、彼が亡くなる3年前、交響曲第41番の1ヵ月後に書かれた作品で、モーツァルトの最高傑作だとして愛する音楽ファンも少なくないし、それだけに名演とされる録音も数多い。ステレオ録音にかぎってもパスキエ、グリュミオー、クレーメル、ツィマーマン……など。それにピリオド奏法の録音も加わって……そんな群雄割拠の戦場に最新録音が加わった。ノルウェーの2Lレーベルによる録音となれば、ずばり音質の良さ。音楽ファンの中には「演奏が良ければ録音の善し悪しなど関係ない」と言う人もいるだろう。でも、そんなことはない。録音という音楽表現は、ステージでのライヴ演奏と同じではない。録音された音そのものが作品となるわけで、たとえライヴ録音であってもマイクロフォン・セッティングや録音機材、何より録音する技術者の感性によって録音芸術としての表現が大きく変わってしまう。今回は、ノルウェーのソフィエンベリ教会で収録された。大聖堂とは違って比較的小さな空間で、祭壇を背後にして半円形に3人の奏者が並び、その前方3mくらいの位置にマイクスタンドが立ち、その上部に取り付けられたアームバーにフロント用、背面からの反射音、天井からの反射音を収録するようにセッティングされている。楽器とマイクロフォンの角度や距離はこれまでのノウハウを踏まえ、周到に配置されているはずだ。
演奏するのは“トリオ・タウス”。ノルウェー室内管などで活躍する女性奏者3人だ。使用楽器はヴァイオリンが1759年製のバレストリエリ。ガルネリやストラディヴァリウスの影響を受けながらマンドヴァで製作した名工の作だ。ヴィオラは1665年製のグランチーノ、チェロが1725年製のゴフリラー。いずれも最上級の名器揃いだ。教会内の左右には美しいステンドグラス。こんな空間で奏でられる弦楽三重奏の醍醐味。各楽器の音色のすばらしさ。生々しいとか、リアルだとか安易な形容はしたくない。352.8kHz/24bitで収録された質感の高さに圧倒されてしまう。3本の楽器が颯爽と浮き立ちながら絡み合う。その倍音をたっぷりと含んで“鳴る”音色と躍動感は実演とはまたひと味違う世界。録音芸術の真骨頂と言えるのではないだろうか。演奏は清涼な清水が流れ出すようにピュアで、青々とした鮮度の高さが際立っている。2Lレーベルの音源らしく多様なフォーマットで提供されており、教会の空間を感じさせてくれるサラウンド音源も魅力だが、この録音に関しては352.8kHz/24bitのすごさに抗うことができない。いつか352.8kHz/24bitのサラウンド音源で聴いてみたいと夢を見る。
音楽ファンの多くが待っていた音源……ヴィルヘルム・ケンプの弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲全集だ。オーケストラはベルリン・フィル、指揮はフェルディナント・ライトナー。1961年、ベルリンのUFAスタジオでのセッション録音だ。長い間、バックハウス / ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーン・フィルによる全集(1958〜59年、ソフィエン・ザール)と双璧をなす名演として愛聴されてきた演奏だ。バックハウスの強靱で豪放で硬派な演奏に対し、ケンプの柔らかくて穏やかな表情が聴き手の心を和ませてくれる。高速で動き回るスピード感、タッチの均一性、複雑なパッセージを難なくこなしてしまう……など、テクニックだけで言ったら、ケンプより巧いピアニストはいくらでもいるだろう。ところが、ときどき指が絡まるようなときがあっても、高速パッセージでもたつくような感じがあっても、それが欠点にならない。むしろ親しみであったり、優しさであったりする。そこに人間味を感じてしまう。やはりケンプは唯一無二のピアニストなのだ。第4番冒頭のピアノ・ソロの和音を聴いただけで“なんて優しい音なんだろう”と思う。第3番も名演だ。第5番になるとさすがに壮大さには物足りなさを覚えてしまうとはいえ、ていねいに音を拾っていく弾き方に魅力を感じるのは私だけではないだろう。それに加えてオケを率いるライトナーの巧みにケンプをサポートする指揮ぶりがすばらしい。ベルリン・フィルの厚みのある響きと機動力を駆使して音楽の推進力を維持していく。テンポは速くないのに音楽は活き活きと躍動する。誰かの物まねではないが“いい仕事してますねー”と評したくなる。
アナログマスターからリマスターされたDSD音源は解像度こそやや甘いけれど、音の鮮度が上がりピアノの輝きもずいぶんとクリアになっている。最新録音であれば、もっとアタックは鋭いだろうし、オケの楽器ももっと克明に描き出されるだろう。でもこの柔らかく響き合うオケの音色には60年代の雰囲気が色濃く残されており、それがケンプのピアノとあいまって“人間味”というAIでも解析できない魅力を創り出している。
2013年のティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリン・コンクールで優勝した2ヵ月後に録音したデビュー・アルバムは、バッハとバルトークの無伴奏曲に挑むという大胆不敵なプログラムで聴き手を驚かせたが、このとき郷古廉はまだ19歳。驚異的なテクニックから生み出されるフレッシュでしなやかな音楽は、彼の才能が並外れていることを示していた。それから数年をかけてバッハとバルトークのシリーズは第2弾、そして最終章となる第3弾へとつながった。これで3つのアルバムがハイレゾで登場したことになる。
第2弾ではバルトークのヴァイオリン・ソナタ第1番からスタートし、バッハの無伴奏ソナタ第3番とパルティータ第3番というプログラム。バルトークでピアノを弾くのは加藤洋之だ。第3弾ではバッハの無伴奏ソナタ第2番とパルティータ第2番、そしてバルトークのヴァイオリン・ソナタ第2番で締めくくる。まずはバッハのシャコンヌ。郷古のヴァイオリンが奏でる音のつながりがじつにスムーズ。どんな速いパッセージでも音程の移行が滑らかで、音楽の流れがまるで弧を描くように進行する。多用される重音の美しいこと。これほど透明感のある重音を連ねることのできるヴァイオリニストはけっして多くない。しかも思い切った強弱を操りながら、それなのに大袈裟な表現はまるでなし。音楽は自然に流れ、いつの間にか聴き手は郷古廉の音楽に魅入られてしまう。
バルトークの第2番では加藤洋之のピアノがすばらしい。繊細さと鋭敏さを極限まで追求するヴァイオリンに合わせるバランスのとり方に思わず“巧い!”と拍手してしまいそう。音量といい、ペダリングといい、呼吸を合わせるかのように弾いていく。バルトークの土俗性や攻撃的な要素を踏まえつつ、それらを昇華させることできわめて洗練された音楽に仕上げている。録音もいいので、彼らの意図するところが明確に伝わってくる。
無色透明、伸びやかな声を持つ勝沼恭子が12年かけて生み出したデビュー作文/國枝志郎
これは待ちに待っていたハイレゾ配信! 三宅純といえばハイレゾと言ってもいいほど、近年ハイ・クオリティなハイレゾ・サウンドを連続してリリースしている音楽家。『Lost Memory Theatre』シリーズや、また旧作ではあるがハイレゾ・マスター、オノ セイゲンのリマスタリングによってDSD化された『星ノ珠ノ緒』は極めて緻密に作りこまれた音の細密画のごとき逸品で、ハイレゾのリファレンスにもなるべきマイルストーン的な作品として当欄でも紹介したものである。2019年に入ってからも三宅はNHKの土曜ドラマ『浮世の画家』や、太宰治の『人間失格』の誕生秘話を描いた超話題映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』のサウンドトラックを手掛けており、それらはいずれもハイレゾでのリリースも実現している。今回ここで紹介する『COLOMENA』は、多くのCM音楽でその歌声を聴かせるヴォーカリスト、勝沼恭子が三宅純とタッグを組んでリリースする初のソロ・アルバムである。三宅純の作品においては、いつでも女性ヴォーカリストが重用されてきたが、勝沼のヴォーカルはそのなかでももっとも重要な役割を担ってきたといってもいい。CM音楽において重用されるということは、透明感がありつつもそこはかとなく存在感があるヴォーカルであることが必要だと思うが、勝沼のヴォーカルはまさにそれにうってつけなのだ。無色透明でどこまでも伸びやかな歌声は、また背景によって七色の色彩を帯びて響く。エンジェリックと言うのともまた違う、しっかりとした存在感をも持ち合わせた稀有な声なのだ。勝沼は2005年にパリに移住し、2007年からDTMで曲作りを始めたというから、じつに12年をかけて一枚のアルバムが生み出されたわけである。参加ミュージシャンも豪華だ。三宅作品には欠かせないキーボード・プレイヤーであるピーター・シェラーをはじめとして、ヴァンサン・セガール、青葉市子、渡辺等、伊丹雅博、宮本大路、林正樹といった日本人勢、フェルベル・ストリングスやブルガリアン・シンフォニー・オーケストラといったアンサンブルまで、豪華なゲストが脇を固めている。そこに乗って勝沼のヴォーカルがどこまでも透明に歌を綴っていく。じつはCDが先行発売されてすぐに手に入れていたのだが、プレイヤーにディスクを入れて音が出た瞬間、あ、これはハイレゾじゃないとだめだ……と思ってすぐにプレイを止めた判断は正しかったと、このハイレゾ(88.2kHz/24bit)を聴きながらあらためて感じている。
これはまず一聴してみてほしい。なんとも不思議というか、ものすごく親密な空間で音が鳴っているようにスピーカーが音を届けてくるのがとてもここちよいのだ。ベテラン・サクソフォン・プレイヤー土岐英史と、土岐のクインテットを中心に多方面で活躍中のピアニスト片倉由美子によるデュオ・アルバム『After Dark』は、「芸術は爆発だ!」でおなじみ岡本太郎の記念館で録音されたものだという。このアルバム、タワーレコードが1970年代の日本のジャズと“これからの新しいジャズ”にスポットをあてて2018年10月にスタートしたレーベル“Days of Delight”からのリリース。当レーベルのプロデューサー平野暁臣は岡本太郎記念館館長であり、レーベル第一弾リリースは土岐の『Black Eyes』だった(96kHz/24bitのハイレゾ配信も行なわれている)。『Black Eyes』リリース直前の9月25日、“Days of Delight”主催のシークレット・ライヴ〈Days of Delight Atelier Concert〉が東京・南青山の岡本太郎記念館内の、普段は展示用に一部公開されている岡本太郎のアトリエで行なわれたのだが、その会場の独特の響きにはレーベルのエンジニアでもあるベーシストの塩田哲嗣が太鼓判を押したという。もちろん土岐自身もおおいに気に入ったというこの会場、あちこちに岡本太郎のキャンバスやオブジェが所狭しと置いてある一角に、岡本が弾いていたアップライト・ピアノ(70年前のスタインベルク・ベルリンだそう)が設置されていて、このデュオ・アルバムではそのピアノが全面的に使われている。かつて岡本太郎がショパンを弾いていたピアノが、「枯葉」や「黒いオルフェ」「Lover Man」など、ジャズ・ファンに愛され続けるスタンダード曲と土岐英史の10分におよぶ名曲「After Dark」などを渋く、ときに甘い音色で片倉が紡いでいくのだが、時として無機的な空間になりがちなレコーディング・スタジオとは違う、人のぬくもりや思いのようなものが漂うこのスペシャルな場所でふたりのグレイトなミュージシャンが行なう“対話”は、ハイレゾ(96kHz/24bit)でよりスムースに聴き手の心に入り込んでくるだろう。
これはまた唐突に珍品が出てきたな……いや、珍品と言ったら失礼だな(苦笑)。90年代のインディ・ダンス・ブーム、マッドチェスター・ムーヴメントを牽引したマンチェスターのならず者集団、もとい、ジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーで有名なファクトリー・レコード所属でファンキーなロックを聴かせるバンド、ハッピー・マンデーズ。フロントマンでヴォーカリストのショーン・ライダーと、ダンサー(笑)であるベズの強烈なキャラクターで人気のあったバンドだが、じつは音楽的にもユニークな個性を持ったサウンドを聞かせていたことは意外に見過ごされてきたのではなかろうか。なんせファースト・アルバム『Squirrel and G-Man Twenty Four Hour Party People Plastic Face Carnt Smile(White Out)』のプロデューサーは元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルなんですよね。じつはこの『The Early EP's』、イギリスでこの10月25日に12インチ4枚組のボックス・セットとしてリリースされたハッピー・マンデーズの初期のシングル集のマスターを使ったハイレゾ(44.1kHz/24bit)配信である。先のジョン・ケイル・プロデュースのファーストをはじめ、ジョイ・ディヴィジョンの鮮烈なサウンドを生み出したマーティン・ハネットのプロデュースによるセカンド『Bummed(ならず者)』、ポール・オークンフォルドとスティーヴ・オズボーンをプロデューサーに迎えてダンス・サウンドに急接近したミニ・アルバム『Hallelujah』とサード『Pills 'N' Thrills And Bellyaches』、トーキング・ヘッズのクリス・フランツとティナ・ウェイマス夫妻をプロデューサーに迎えたコールド・ファンクなフォース・アルバム『...Yes Please!』が今だハイレゾ化されない状況で、正直言うとまだ売れる前のハピマンの初期シングルがハイレゾ化とは、これまた時代のいたずらなんだろうかとすら思ってしまうが、こうしてまとめて聴いてみると意外に悪くない。悪くないどころか、マンチェスターの有名クラブ、ハシエンダのDJで、ファクトリー・レコードに勤務して今はメジャー・レーベルのA&Rを務めるマイク・ピッカリング、ジョイ・ディヴィジョン〜ニュー・オーダーのギタリスト/ヴォーカリストであるバーナード・サムナー、そして前述のジョン・ケイルら凄腕ミュージシャンによってプロデュースされたこれらのシングル・ナンバーはどれも意外にしっかりとしたプロダクションを聞かせ、マンデーズの音楽的な出発点をあらためて浮き彫りにしてくれている。ただの与太者集団じゃないんですね(失礼)。アルバムもリマスター&ハイレゾ配信希望!
今月のビッグ・リイシュー! イギリスの偉大なロック・アーティスト、ピーター・ガブリエルのカタログが一気に23枚(『Scratch My Back』〈2010年作〉のみ通常盤とスペシャル・エディションの両方が出ているので、正確には22枚)ハイレゾ配信スタートだ。21世紀初頭にガブリエルのアルバムはSACDでリリースされていたが、それ以来の快挙と言えよう。初期のジェネシスでシアトリカルなステージングの要を担ったヴォーカリストであり、1969年のデビュー作『創世記』から1974年の4作目『眩惑のブロードウェイ』まで同バンドに参加した後脱退、1977年に『ピーター・ガブリエル』でソロ・デビュー。以後スタジオ作は9作品、ライヴ盤6作品、コンピレーション6作品、サウンドトラック4作品をリリースしてきた(2019年現在)。40年以上のソロ・キャリアにおいてスタジオ作9枚というのはいかにも少ないが、そのいずれもが時代を築いてきた重要作ばかりである。一般的にはアメリカのビルボード・チャートで1位を獲得し、MTV全盛期にクレイアニメをコマ取りにしたアニメーション仕立てのビデオ・クリップが大人気となったシングル「スレッジハンマー」を含む5作目『So』がよく知られていると思うけれど、ハイレゾ的にはあえて1980年の作品で、ガブリエルの顔が半分溶けた衝撃的なジャケットから通称“Melt”と呼ばれるサード・アルバムを取り上げたいと思う。80年代のロックを聴いてきた方ならどこかで聴いたことがあるであろう“ゲート・リヴァーブ”もしくは“ゲート・ドラム”。プロデューサーであるスティーヴ・リリーホワイトとともに作り上げたドラムスのリヴァーブを極端にカットしたサウンド(ジェネシス時代からの盟友フィル・コリンズによるプレイ)は一世を風靡したものである。アルバムのオープニングを飾る「Intruder」は、まさにそのゲート・リヴァーヴ・ドラムのサウンド見本市のようなナンバー。ちなみにこの曲の波形が見れる人はぜひ見ていただきたい。波形がものすごく特徴的なのです。ゲート・リヴァーヴ・ドラム、そしてハイハットを徹底して使わず、その結果全体としてその後ガブリエルが接近していくワールド・ミュージック的なアプローチも感じさせる作品としても重要作だ。ハイレゾ的に見ても、ファーストから6枚目のスタジオ作『Us』までは96kHz/24bitというスペックが採用されている(サントラなどは48kHz、44.1kHzスペックもあり)ので、まずはオリジナル・アルバムを聴いてみていただきたい。ちなみに初期のアルバムに存在したドイツ語版も同一スペックで配信されているので、聴き比べるのも一興。
(注意:このコラムは当アルバムの趣旨にそっておりますので多少読みにくいところがあります。ご容赦ください。またこのコラムはきっちり4分33秒かけて読んでいただければ幸いです)
こ れ は !!!!!!!!!!!!! ここ数年で、いや、音楽史上いち ばん や ば いブツちゃ い ますか………………………………………デペッシュ・モ ードを輩出し、イギリスのイ ンディペンデント・レ ベルでも最も成功し たダニエル・ミラー 率いるMUTEレコードのレーベル設 立40周年 企画“MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) シリーズ”のメイン・プロジェクトとして企画さ れたもので、現代音楽の礎を築いたジョ ン・ケージの歴史的傑作「4分33秒」を50組以上のアーティスト がカヴァーす るというもの。1952年に発表 されたケージの作 品「4分33秒」はご存じの とおり、“演奏時 間内(4分33秒)に一切自分の楽器 を演奏しない”という曲である。この曲以後、静寂、サ ウンド、作曲、はたまた聴 取という一般概 念は完全に様 相を変えてしまったといえるほ どの衝撃をもた らしたこの曲をどのようにカヴ ァーするのか。それをここで 記してしまうのは差 し控えよう。だが、参 加したアーティスト(デペッシ ュ・モード、ニュー・オー ダー、イレイジャーとい ったスタジアムクラスのロッ ク・バンドから、アインシュ トゥルツェンデ・ノイバウテンやマイ ケル・ジラ(スワンズ)、キャバレ ー・ヴォルテールといったイ ンダストリアル系バンドまで幅 広く集められている)は、楽 譜の指定をすべて(もちろん、違った やり方で)守っている。全58曲、265 分におよぶこの挑戦的な作品は、ぜひハイレゾ(44.1kHz/24bit)で、 最初から最後までぶっ 通しで聴いて(感じて)みてい ただきたい。蛇足ながらち なみにタイトル の“STUMM”はMUTE レーベルのアルバ ムナンバーにつけられた記号で、番号 はもちろんア レである。遊びごころ満 載でさすがMUTEとい う感じ。