[こちらハイレゾ商會]第76回 MISIAの伸びやかなヴォーカルとビッグバンドの音が柔らかいハイレゾ
掲載日:2020年2月10日
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こちらハイレゾ商會
第76回 MISIAの伸びやかなヴォーカルとビッグバンドの音が柔らかいハイレゾ
絵と文 / 牧野良幸
MISIAの最新アルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』が発売され、ハイレゾでも配信された。ハイレゾはFlac(44.1kHz/24bit)での配信である。
何を隠そう僕もMISIAのファンで、本作には入っていないが「恋する季節」などはカラオケの持ち歌にしていたくらいである。ライヴのDVDも何本か買った。
MISIAのCDを聴いたりDVDを観ていると、歌が上手いのは言うまでもないことだが、その他にもアレンジの良さ、DVDで観るならダンスのカッコよさ、ステージの演出の独創性などにも惹きつけられる。つまりMISIAという歌姫の周りには、クリエティヴな才能が多く集まっているということだ。
このように常に最先端を走ってきたMISIAであるが、今回は打って変わってレトロなデザインのジャケットである。どことなくロシア構成主義を思わせる色彩とデザインだ。加えてアルバムタイトルに“JAZZ”という言葉が入っているものだから、てっきりビッグバンドをバックにジャジーに歌うアルバムと想像したところ、見事に予想を覆された。
本作はビッグバンドをメインにしながらも、アレンジはジャズ、ソウル、アフロ、ヒップホップ、R&Bなどが絶妙にミックスされた、これまでのMISIAのアルバム同様、かなり“攻めたアレンジ”である。だから“SOUL JAZZ”という言い方をしているのだろう。
アレンジは黒田卓也、演奏はニューヨーク在住のミュージシャンによるものらしい。収録曲は、「Everything」や「BELIEVE」「キスして抱きしめて」「陽のあたる場所」「つつみ込むように…」などの往年の名曲の再アレンジほか、新曲も含まれる。
ゲストも豪華で、Kinki Kidsの堂本剛が「あなたとアナタ」を提供、本人も一緒に歌っている。「来るぞスリリング」ではラウル・ミドンがギターとスキャット(?)で参加。「Mystrious Love」ではラッパーのMIYACHIが参加。さらに世界的ベーシスト、マーカス・ミラーも「オルフェンズの涙」でベースを弾いていて、ベース・ラインが聴きどころ。
ということで『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』は、トータルでMISIAの今を伝えるベスト・アルバムとなっている。全16曲。結構なヴォリュームだ。
1曲目は名作「Everything」。イントロからブラスセクションが現れ、「うわー、ジャズっぽくていい」とまずは引きつけられる。誰もが知っている名バラードだけに、アレンジは原曲に近いものになっているけれども、MISIAのヴォーカルの後ろで絶えず動き、アクセントを入れるブラスのアレンジが絶妙だ。オリジナルと同じくらいMISIAのヴォーカルもキマっているし、このヴァージョンは好きである。
しかし先に本作は“攻めたアレンジ”、と書いたように、2曲目の「CASSA LATTE」からは、いろいろなビッグバンドのアレンジが次々に飛び出す。大活躍するのは、サックス・セクションやトランペット、トロンボーンなのだが、昔ながらの楽器を“こう吹かせるか!?”と思わせるアレンジは非常に刺激的だ。これでもかというくらいのブロウが心地よい。
その一方でいくら最先端のアレンジで演奏されていても、やっぱり、ビックバンドの音は懐かしいところがあることにも気づく。
サックス・セクションの和音とか金管のユニゾンとかの響きには、まだロックが生まれる以前、世界中の人々を熱狂させていたビッグバンドの芳香が宿っているのを感じて心癒されるのだ。その上にMISIAのヴォーカルやラップがのっているのがまたこのアルバムの面白さなのだが。
それにしてもMISIAの歌声はデビュー時とまったく変わらないのではないかと思うくらい伸びやかだ。声の艶も変わらない。
ハイレゾはFlacの44.1kHzということで、スペックは高くないものの、ビッグ・バンドのサウンドだけに音場は柔らかい。ブラス・セクションの厚みのある音にゾクっとくる。ドラムもドラム・セットが目の前に浮かぶような空気感だ。
J-POPに多く見られるハウス系の音だと、打ち込みの音は音圧が高くて、ハイ・ファイ・オーディオでは持て余してしまうところがあるが、本作はそんな心配もなくひたすらブラスの分厚い音、ドラムスの動き、その他の細かい演奏を楽しむことができる。まことにハイレゾならではのアルバムと言えるだろう。そしてなによりMISIAの伸びやかなヴォーカルをご堪能あれ。



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