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第83回 ジョン・ウィリアムズの名曲を自身の指揮とウィーン・フィルで演奏した決定版
ジョン・ウィリアムズが2020年1月に、伝統あるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して自作を演奏した。これはジョン・ウィリアムズのウィーン・フィルへの指揮者デビューという歴史的なコンサートでもある。そのコンサートを収録した『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』がハイレゾで配信されたので今回取り上げる。flacとMQA(ともに96kHz/24bit)での配信である。
コンサートがおこなわれたのはウィーンのムジークフェライン。ここはウィーン・フィルの本拠地であり、毎年ニューイヤー・コンサートがおこなわれる所として有名だ。クラシック・レコードの愛好家にとっては、ウィーン・フィルの数々の名盤が録音されてきたホールとしても有名である。今回のライヴもクラシックの老舗レーベル、ドイツ・グラモフォンがリリースしたのだから心そそられるだろう。
それにしても、クラシックのメッカとも言えるムジークフェラインにジョン・ウィリアムズの音楽が流れる。これは40年以上前、映画館で初めてジョン・ウィリアムズの音楽を耳にした時には想像できなかったことだ。正確にはその前に公開された映画『ジョーズ』や『未知との遭遇』ですでに聴いていたことになるが、やはり作曲家の名前を覚えるほどインパクトがあったのは『スター・ウォーズ』だった。
1977年、『スター・ウォーズ』が世界中で大ヒット。同時にジョン・ウィリアムズ指揮ロンドン交響楽団によるサントラ盤も大ヒットした。僕も2枚組のLPを貪るように聴いたものである。それでもこの音楽が、カラヤンやベームのレコードでオーラを放つドイツ・グラモフォンのジャケットになって出ることまでは考えなかった。まして作曲家がウィーン・フィルの指揮台に立つことなど夢にも思わない。まだ映画音楽とクラシック音楽は別物の時代だったのだ。
そう考えると、今回のジョン・ウィリアムズのウィーン・フィル・デビュー。あらためて40数年の時の流れを感じずにはいられない。
しかし40年以上の年月が流れたにもかかわらず、ジョン・ウィリアムズの音楽がいまだに魅力にあふれていることにも、また驚いたのである。それが今回ウィーン・フィルの演奏を聴いて感じたことだ。
『スター・ウォーズ エピソード4 / 新たなる希望』の「メイン・タイトル」など、これまで何百回耳にしたかわからない曲だけれど、やはり盛り上がる。そして熱くなる。40年以上たっても色褪せないのなら、これはもう管弦楽曲の古典といってもいいのではないか。
ジョン・ウィリアムズの曲の特徴のひとつに映像以上に映像的なところがあるが、「ネヴァーランドへの飛行」(『フック』)など、音楽だけでも冒険に飛び込んだかのような興奮を覚える。それはリスナーだけではなく演奏者も同じで、ウィーン・フィルのメンバーも興奮している様子が音からも伝わる。
誰もが知っている「帝国のマーチ」(『スター・ウォーズ / 帝国の逆襲』)では、ウィーン・フィルの誇る金管セクションが鳴りまくる。僕はウィーン・フィルは、ホルンの音色が特に好きだが、トランペットやトロンボーンも含めた金管セクションによる「帝国のマーチ」は、やはり他のオーケストラの演奏を凌駕する凄みと深みがあると思う。この曲はウィーン・フィルの金管メンバーの方から演奏したいと申し出たらしいが、確かに彼らの熱気がストレートに伝わる演奏だ。
「レイダース・マーチ」(『レイダース / 失われたアーク《聖櫃》』)もそう。この曲は同じメロディを何度も繰り返すから、音そのものに耳が向きやすい。おのずとウィーン・フィルの響きに耳を凝らすことになる。やっぱりウィーン・フィルが演奏すると同じメロディの繰り返しも味わいがあるのだ。もちろん金管だけではなく弦楽セクションもウィーン・フィルは独特の個性を持つ。「マリオンのテーマ」のようなロマンティックな曲はウィーン・フィルだとより甘美になる。
もともとジョン・ウィリアムズの曲はオーケストラが気持ちよく鳴るアレンジだと思う。ストリングス、木管、金管、それぞれが最上の音で、聴かせどころとなるメロディを奏でる。ということでハイレゾのうまみも気持ちよく演奏するウィーン・フィルの響きとなる。再生音は直接音にムジークフェラインの残響が加わったバランスの良い音。ベートーヴェンやマーラーの交響曲を聴くのと同じように、じっくりとウィーン・フィルの音に耳を傾けたい。ハイエンドのシステムなら、すごいウィーン・フィルの響きが聴けそうだ、うらやましい。
ジョン・ウィリアムズの曲はこれまで数多くの演奏が発売になってきたが、『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』は決定版にして永久保存版となるハイレゾだと思う。