こちらハイレゾ商會
第88回 DEENが海外で人気のジャパニーズ・シティ・ポップをカヴァー、より爽やかにカッコよく
DEENがジャパニーズ・シティ・ポップの名作をカヴァーした『POP IN CITY 〜for covers only〜』を発表した。ハイレゾでもflac(96kHz/24bit)で配信されたので、今回はこれを取り上げる。
いきなり収録曲とオリジナルの歌手を挙げると、
1. 悲しみがとまらない(杏里)
2. 埠頭を渡る風(松任谷由実)
3. 恋するカレン(大滝詠一)
4. プラスティック・ラブ(竹内まりや)
5. DOWN TOWN(シュガーベイブ)
6. バカンスはいつも雨(杉真理)
7. 真夜中のドア / Stay With Me(松原みき)
8. RIDE ON TIME(山下達郎)
9. 君は1000%(1986 オメガトライブ)
10. 恋は流星(吉田美奈子)
11. 夢で逢えたら(吉田美奈子)
でたぁー、である。音楽ファンなら誰もが知っている名曲が惜しげもなく並んでいる。まるでカセットで自作ベスト盤を作ったかのような選曲である。車で走りながら聴いたらさぞ気持ちがいいだろう。カー・オーディオもハイレゾ対応があるというから可能な方も多いはずだ。もちろん家で聴いてもいい。最近はお籠りの機会が多いから、爽快な気分になるハイレゾであることは間違いなし。
近年日本のシティ・ポップが世界的に注目されているという。最初、その話を聞いた時は信じられなかった。欧米やアジアの人々に竹内まりやの「プラスティック・ラブ」や松原ゆきの「真夜中のドア / Stay With Me」が人気だという。女性シンガーだけかと思ったら山下達郎など男性シンガーも人気らしい。
まだ“ジャパニーズ・シティ・ポップ”という言葉がなかったあの頃。友人と喫茶店で
「タツローは洋楽とタメだね」
「そのとおり」
などとコーヒー一杯で何時間も熱く語りあったものだ。
「洋楽とタメ」というのは――こう書くと偉そうだけど――洋楽コンプレックスを持っていた僕らに、ようやく聴ける日本のポップスが登場したという意味である。ただサウンドは海外でも通用すると信じていたが、日本語で歌っているから外国の人が聴くとまではさすがに思わなかった。それが今では……。長生きはしてみるものである。
しかしいくらジャパニーズ・シティ・ポップの名曲を集めても、アルバムとして聴けるかというと話は別だ。カヴァーするアーティストの実力、プラス・アルファの魅力がなければダメである。今ならプレイリストで簡単にベスト盤を編めるから、ただカヴァーを並べても感動はしない。
その点『POP IN CITY 〜for covers only〜』は、原曲の良さにDEENの魅力が重なり、カヴァーを超えたアルバムとして大いに楽しめた。最初こそオリジナル曲を聴く時の感動が蘇ることに興奮したが、聴いていくにつれDEENの音楽そのものに引き込まれていった。
なんと言っても池森秀一のヴォーカルがいい。甘く伸びる歌声。オリジナルの歌手は相当の大物揃いだが、 池森も負けてはいない。ジョン・アンダーソンが歌えばイエスであるように、池森が歌えばDEENである。どの曲もDEENのオリジナル曲であるかのように聴いてしまう。 池森は蕎麦にも詳しいが、やはりヴォーカルが天下一品だ。
それは池森とともにDEENをささえるキーボードの山根公路や他のミュージシャンの演奏が上手いからとも言える(山根は「RIDE ON TIME」で池森に劣らぬ見事なヴォーカルを聞かせる)。バンドは水を得たというか生き生きとした演奏で、シティ・ポップの王道を行きながらも、さらに爽やかにカッコよく聞かせる。
DEENのファン、特に若いファンはこのアルバムで日本のシティ・ポップに目覚めることだろう(とっくに聴いているかもしれないが)。往年の音楽ファンは日本のシティ・ポップの良さを再確認すると同時にDEENにも魅了されるだろう。
最後にハイレゾの話も書いておこう。音場は池森のヴォーカルがよく伸び、バックにバンドの音がたっぷりと鳴る空間だ。エッジが柔らかいので音量を上げても耳にうるさくない。
気の利いたバック・コーラス、カッコよく挿入されるホーン・セクション、クールなギター・カッティング、お洒落なサックス・ソロ。これらジャパニーズ・シティ・ポップの美味しいところが惜しげもなく入っているにもかかわらず、ハイレゾはどの音も綺麗に描き分ける。高音質ファンならハイレゾでどっぷりと浸かってもらいたいと思う。