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第92回 ノラ・ジョーンズ初のライヴ・アルバムは高音質でワイルド
ノラ・ジョーンズが初のライヴ・アルバム『ティル・ウィー・ミート・アゲイン 〜ベスト・ライヴ・ヒット』をリリース。ハイレゾで配信された。ファイルはflacとMQA。どちらもスペックは96kHz/24bitだ。
ノラ・ジョーンズというと2002年のデビュー作『ノラ・ジョーンズ(Come Away With Me)』が鮮烈だった。アルバムはグラミー賞を多数受賞。若い女性アーティストのアルバムがジャズの名門レーベル、ブルーノートから出たのもびっくりしたし、彼女がジョージ・ハリスンとの関係でビートルズ・ファンに有名なラヴィ・シャンカルの娘ということにもびっくりした。21世紀となり、音楽の世界でも世代が変わったことを実感した一枚だ。
『ノラ・ジョーンズ』はオーディオ界でも話題になった。その頃普及が始まりだしたSACDでも発売。ノラ・ジョーンズはダイアナ・クラールとならんで、オーディオ・ファイルの歌姫としても人気となる。ハイレゾ配信が開始されてからも同様だ。これまでのアルバムがハイレゾで配信中である。
ただデビュー以来、着実にアルバムを発表し音楽性を深めてきたノラ・ジョーンズだが、ライヴ盤はなかった。映像ソフトではあったものの、音だけのライヴ・アルバムはなかった。
そのノラ・ジョーンズのライヴ・アルバムがようやく出たわけである。デビューから実に19年。ずいぶん長い間待たされたことになるが、 僕の中ではデジャ・ブ(既視感)を持って迎えることになる。ノラ・ジョーンズのステージ、何度も見たことがある気がすると。
それはセス・マクファーレン監督の『テッド』という映画だ(2012年公開)。その中でノラ・ジョーンズが本人役として登場する。ノラ・ジョーンズが野外のステージでライヴをしている。そこに主人公のテッドという、ちょっと(というか、かなり)不良のクマのぬいぐるみがやってくる。ノラはテッドと旧知の間柄らしく、楽屋に入ってきたテッドの品のない挨拶にも臆することなく切り返す。この時のノラ・ジョーンズがとてもカッコいい。
映画では実際の演奏場面はない。でもバンドとともにステージに立ち、観衆に話しかけるノラ・ジョーンズ。それだけでも貴重だ。『テッド』のBlu-rayを何度も繰り返し見てきた僕には、この映像が今回のライヴ・アルバムと重なったのだった。
しかし映画はこれくらいにして、アルバムに話を進めよう。ハイレゾの音質は文句なし。ワイルドでありながら繊細で解像度もある。スタジオ録音と遜色のないほど楽器にフォーカスされた音だ。それでいてライヴならではの空気感が漂うのだからたまらない。現代のライヴ録音の素晴らしさを感じる。
収録されたのは、2017年から2019年まで、世界のいろいろな国でおこなわれた演奏だ。ノラ自身が気に入ったものを選んだという。
編成はノラ・ジョーンズのヴォーカルとピアノ、他にベースとドラムによるトリオ編成を基本とし、曲によりオルガンとかギター、フルート、パーカッションなどが味付けとして加わる。この効果も大きい。
確かに正真正銘のライヴである。どの曲もスタジオ・アルバムに収録されたヴァージョンより生き生きとしている。特に印象的なのはノラ・ジョーンズのヴォーカルとピアノだ。
ヴォーカルは力強い。これまでノラ・ジョーンズの音楽を、“癒し系”として聴いてきたところがあったけれども考えをあらためた。ジャズ・シンガー、カントリー・シンガーとしてはもちろん、ロック・シンガーとしても通用しそうである。
ノラのピアノはさらに印象的。これこそロックに近いと思った。個人的にはエルトン・ジョンのピアノを聴いているような感覚。このライヴ・アルバムではノラ・ジョーンズのピアノ奏法がロック好きの僕をワクワクさせる。これにエレクトリック・ギターが大々的に加わり、ドラムがロック・ビートを刻んだら、キャロル・キングのような女性ロック・アーティストになりそうである。
しかしノラ・ジョーンズはやっぱりノラ・ジョーンズだ。音楽ジャンルに関係なくノラ・ジョーンズの音楽は世界中で愛されている。演奏が終わった直後の湧き立つ歓声がそれを証明している。観衆の熱気はリスニングルームにも伝わる。ハイレゾならではの極上のライヴ・アルバムだ。 オーディオ・ファイルはこれからもノラ・ジョーンズから目が離せないだろう。