[こちらハイレゾ商會]第101回 ボブ・ジェームス・トリオをヘッドフォンに最適化されたHPL音源で聴く
掲載日:2022年3月8日
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こちらハイレゾ商會
第101回 ボブ・ジェームス・トリオをヘッドフォンに最適化されたHPL音源で聴く
絵と文 / 牧野良幸
ボブ・ジェームスの新作『Feel Like Making LIVE!』がハイレゾで配信された。リリースは高音質レーベルのevosoundだ。
本作はボブ・ジェームスが自身のソロ作品やフォープレイの作品をセルフ・カヴァーしたアルバムだ。スタジオでのライヴ演奏を編集なしの一発録りで収録している。編成はボブ・ジェームスのピアノやフェンダー・ローズにベース、ドラムを加えたトリオ。
ジャズ、フュージョン、スムース・ジャズを牽引してきたボブ・ジェームスも80歳を超えた。しかしアルバムには年齢をまったく感じさせない若々しい演奏が収録されている。ドラム、ベースと一体となってパワフルに聴かせる曲もあれば、ピアノでしっとりと聴かせる曲もある。どの曲もカヴァーとは思えないほど新鮮で今作曲されたような生命力にあふれている。
ハイレゾ音源は高音質レーベルのevosoundらしく2ch(flac、WAV、MQA)、5.1chと7.1ch(flac、WAV)が配信されている。だいぶ前からハイレゾでもサラウンド音源の配信がおこなわれているが、7.1chまで配信されているのだからオーディオもすごい時代になったものである。また面白い時代になった。
しかし今回聴いた音源はそれらではない。今回はそれらに加えてハイレゾ配信されているHPL7.1.4音源を聴いた。これも今日のオーディオの面白さを象徴する音源だ。
HPLとはHead Phone Listeningの略で、ヘッドフォンやイヤフォンでのリスニングに最適化した音源らしい。これは株式会社アコースティックフィールドが開発したエンコード技術だという。HPL音源はリスナー側に特別な機材は要らず、通常のヘッドフォンやイヤフォンで聴くことができる。
通常、2chの音をヘッドフォンで聴くと、頭の中では音の定位が変わるという。しかしHPL音源ならヘッドフォンで聴いても定位を崩さず、スピーカーで聴くような感じで聴ける、と言うのだ。
ということで、ここからはヘッドフォンで聴いた感想である。頭の中の世界を言葉に置き換えるのは非常にむづかしい。また個人差も大きいだろう。あくまで個人的な感想と思っていただきたい。
このHPL音源は5.1ch音源から制作されたものだという。実際にスピーカーで聴いた5.1ch音源と比べてみると、たしかに楽器の位置や音場が同じである。
前方左にキーボード、中央にベース、右にドラムが現れる。なにせ頭の中の音場なので、本当に前方かなあと自分でもちょっと頼りないが、音源との距離感が頭の中で感じられるのだから前方と書いても差し支えないだろう。
この楽器との距離感が心地よい。定位が前方だから頭上に音がなく(または感じず)スッキリ。たしかにこれはスピーカーで聴いた時の空間に近いのではないか。しっとりと奏でる「ミスティ」のように、余白の多い曲を聴くとより分かりやすいだろう。 自然な奥行き感がある。
僕が何より気に入ったのは、この空間に人工的な感じがしないところである。よく残響成分(ホールトーン)で空間を生み出した音は耳にするが、このHPL音源にそんな感じはない。あくまで僕のシステムでの比較だが、スピーカーで聴く5.1chよりもアンビエント音は抑えられているのではないか。
何も言わないで聴かせたら、普通の2ch音源と思ってしまうかもしれない。それほどHPL音源の音質や響きには違和感がない、ということを言いたいのだが、オーディオ・マニアならそこも気に入るはずだ。
参考のために、別に配信されている2ch音源もヘッドフォンで聴いてみた。こちらは頭の中いっぱいにキーボードとドラムが広がる。この2ch音源はキーボードとドラムをスピーカー間に大きく配置している5.1chとは異なるミキシングだから、一概に比べることはできないが、トリオが実際のライヴと同じように前方に横に並び、奥行き感のある空間となるHPL音源のほうがヘッドフォン・リスナーにはベターだろう。
最後に僕の使用機材を書いておくと、ヘッドフォンはソニーのMDR-CD900ST。多くのレコーディング・スタジオで使われているヘッドフォンで僕も気に入って長年使っている。それをステレオアンプや、ハイレゾ対応のポータブル・プレーヤーに繋げて聴いた。
ボータブル・プレーヤーでハイレゾを聴くのは、スピーカーで聴くのとはまた違った楽しみなのだが、今回のHPL音源はそこに新たな楽しみが加わったと言っていい。音も気に入ったが、HPL音源だとヘッドフォンでも疲れが少ない。どんどん聴ける。その意味でもヘッドフォン・リスナーにHPL音源はおすすめである。



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