[こちらハイレゾ商會]第104回 ニール・ヤングの公式ブートレグは涙もの
掲載日:2022年6月14日
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第104回 ニール・ヤングの公式ブートレグは涙もの
絵と文 / 牧野良幸
ニール・ヤングの“オフィシャル・ブートレグ・シリーズ”に3タイトルが加わり、ハイレゾでも配信になった。
リリースされたのは『Dorothy Chandler Pavilion 1971(Live)』、『Royce Hall 1971(Live)』、そして『Citizen Kane Jr. Blues(Live At The Bottom Line)』の3作品。最初の2タイトルが1971年、あとの1タイトルが1974年のライヴを収録している。
僕のような70年代ロック世代には、ブートレグというと海賊盤、つまり“音質を我慢して聴くレコード”というイメージがかつてあったが、今回の3タイトルはさすがにニール・ヤングが公式リリースしただけあって音質は文句なし。当時公式ライヴ盤としてリリースされていたとしてもおかしくないクオリティだ。ニール・ヤングは高音質にこだわるアーティストとしても有名だから、納得のマスタリングが施されたのかもしれない。
3タイトルは音質だけでなく演奏も素晴らしい。ニール・ヤングの70年代初頭のアコースティック・ソロ・パフォーマンスを十二分に堪能することができる。
では『Dorothy Chandler Pavilion 1971(Live)』を例にして紹介しよう。
これは1971年2月1日、ロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パビリオンでおこなわれたライヴである。ドロシー・チャンドラー・パビリオンをネットで調べてみると、このホールはオペラが上演できるだけあってステージが大きく収容人数も多そうだ。ここでニール・ヤングはひとりでギターやピアノを弾き歌ったのだ。
オープニングは「オン・ザ・ウェイ・ホーム」。ニール・ヤングのバッファロー・スプリングフィールド時代の曲だが、僕はCSN&Yのライヴ・アルバム『4ウェイ・ストリート』で知った曲だ。
『4ウェイ・ストリート』ではまず導入部として「組曲:青い眼のジュディ」の最終コーラスがフェイドインしてくる。ワーと盛り上がったところで、“紹介します、ニール・ヤング!”ときてニール・ヤングがこの曲を歌うのがアルバムのスタートだった。カッコいい。曲がいいこともあって、これで僕はニール・ヤングのファンになった。
ブートレグの演奏はその『4ウェイ・ストリート』と同じアコースティック・ヴァージョン。CSN&Yと違って一人だからギターやコーラスの重なりこそないが、それでも『4ウェイ・ストリート』で聴いた時の感動が蘇る。1曲目から涙ものである。
僕が高校生の時だが、『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』から始まり『ハーヴェスト』『渚にて』ときて、75年の『今宵その夜』までがニール・ヤングとの蜜月だった。どれも素晴らしいアルバムで何度も聴いたが、その一方で『4ウェイ・ストリート』(のディスク1)のようなアコースティック・ライヴをもっと聴きたいと思っていた。当時このブートレグを手に入れた人は、さぞ満足していたと思う。
僕はこのブートレグの存在は知らなかったが、たとえ知っていたとしても、ロック雑誌の広告に載っていた海賊盤は値段が高く正体も知れなかった。高校生が手を出すことはなかったはずだ。それが今回のハイレゾで僕も聴くことができたのだから、近年のアーカイヴ発掘企画には感謝である。
しかしオープニングの1曲で感激するにはまだ早すぎた。
続いて「テル・ミー・ホワイ」。『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の名曲。これも涙もの。そしてライヴの時点ではまだ未発表の『ハーヴェスト』から「孤独の旅路」「オールド・マン」「ダメージ・ダン」。その次のアルバム『渚にて』に収録されることになる「アバウト・トゥ・レイン」まで歌っている。
つまるところ、このライヴには僕が好きなニール・ヤングの曲が演奏されているのである。ほかにも「カウガール・イン・ザ・サンド」「オハイオ」などグッとくる曲ばかり。ニール・ヤングと蜜月だった高校生の頃に戻ったような感覚である。
もちろん昔と違う印象もある。ニール・ヤングというと、昔は“ふにょふにょヴォーカル”と呼んでそれを愛していたものだが、ブートレグではそんなに“ふにょふにょヴォーカル”にも思えなかった。これは約50年という年月が僕を変えたのかもしれない。アルバムの多いニール・ヤングだから全部とは言わないが、あれこれ聴いているうちに慣れてしまったのだろう。
最後に音質について付け足しておくと、詳しくわからないが、ヴォーカルやギター、ピアノはきちんとしたマイク・セッティングで録った音であろう。ヴォーカルは生々しく伸びやか、ギターは解像度が高く鮮明な音である。ピアノも左右に広がる豊かな音。何度も楽しむなら音質はいいほうがいい。ぜひハイレゾで聴いてみてほしい。



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