こちらハイレゾ商會
第11回 死が本当にやってきたような96kHz / 24bitの空気感 の巻
プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をe-onkyoが配信しているハイレゾで聴いた。
これは
カラヤンが
ベルリン・フィルを振った1972年のデッカ録音である。LP時代から名盤だったらしいが、96kHz / 24bitという高音質で聴いてみて、あらためてその素晴らしさに感動した。
プッチーニのオペラは大好きである。とくに『ラ・ボエーム』は一番のお気に入りで、いろいろ聴いてきた。曲が素晴らしいから、どの録音で聴いても感激するのだ。甘く、胸をかきむしられるメロディの連発。僕が全幕を一気に聴けるオペラといえば、この『ラ・ボエーム』しかない。
しかしハイレゾのカラヤン盤を聴いて、「これこそ『ラ・ボエーム』だ!」と思ってしまった。
まず、ベルリン・フィルの繊細かつ濃厚な演奏に驚かされる。いかにもカラヤンらしい
ワーグナー的アプローチだ。しかしイタリア・オペラにワーグナーの血が注ぎ込まれたとしても、プッチーニの音楽は微塵も失われていない。むしろイタリアの血がさらに熱く沸騰したかのようである。
ベルリン・フィルと同じくらい熱く歌い上げるのがパヴァロッティである。パヴァロッティの声は贅肉がなく若々しさにあふれている。どこまでも伸びる声にウットリしてしまう。
そのパヴァロッティ以上に素晴らしいのが、そう、ミレッラ・フレーニ!
パヴァロッティを含めてほかの声楽陣が、どこまでも歌手なのにたいして、フレーニだけは歌手というより、ミミという生身の人間になっているような気がしてしまうのである。それくらいフレーニの歌声はミミにピッタリなのだ。
オーディオに話を移すと、ハイレゾの素晴らしい音質にもビックリすることだろう。録音はカラヤンがお気に入りだったイエス・キリスト教会。ハイレゾでは空気感のある音場がリスニング・ルームにあらわれる。
僕のスピーカーはトールボーイ・タイプのB&W 804だけど、このハイレゾはもっと上がありそうである。ハイエンドなスピーカーになればなるほど、コクのあるオーケストラ・サウンドと、生き生きとした声楽があらわれる予感がする。
だけどハイレゾの醍醐味は静寂のなかにこそあると思う。それが第4幕、ミミの臨終の場面だ。
横たわるミミを見守るロドルフォと彼の親友たち。ミミが死んでいると先に気づいた親友たちのやりとりは、本当に死がオーディオを通じて眼前にあらわれたようである。聴いていてヒンヤリとするくらいだ。
と、不穏な雰囲気に気づいたロドルフォがミミのもとに駆け寄る。息絶えていたミミの名を叫ぶロドルフォ。すさまじいオーケストラの音とともに幕。この場面こそ、ぜひ96kHz / 24bitの空気感で聴いてほしい。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ルチアーノ・パヴァロッティ(T)ミレッラ・フレーニ、エリザベス・ハーウッド(S)ロランド・パネライ(Br)ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
『プッチーニ: ラ・ボエーム』
(1972年録音)