[こちらハイレゾ商會] 第113回スティングがジャズ・ミュージシャンと制作した初ソロ作『ブルー・タートルの夢』
掲載日:2023年3月14日
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第113回 スティングがジャズ・ミュージシャンと制作した初ソロ作『ブルー・タートルの夢』
絵と文 / 牧野良幸
今回はスティングの『ブルー・タートルの夢』のハイレゾを取り上げる。ハイレゾはflacとMQAで192kHz/24bitと96kHz/24bitが配信されている。ちょうどスティングも来日した。タイミングもいい。
『ブルー・タートルの夢』は1985年に発表された。スティングにとっては『シンクロニシティー』という傑作を生み出したポリスの活動を停止しての初ソロ作品。バックにジャズ系のミュージシャンを起用したことでも話題になった。
ポリス時代はFM放送でヒット曲に耳を傾けるくらいだった僕も、スティングの新しいスタートには興味をひかれたので、LPレコードを買った。
今では音楽ジャンルに上下はないとわかっているが、当時二十代の若者にはわからない。スティングがジャズ系ミュージシャンを起用したことで、スティングという人物、およびスティングの音楽は僕の中で格上げされたのだった。スティングが起用したのがロック系ミュージシャンだったらはたして『ブルー・タートルの夢』のレコードを買っただろうか、と思う。
バックのメンバーは当時話題を集めていた新世代のジャズ・ミュージシャン、ブランフォード・マルサリス(sax)。ほかにダリル・ジョーンズ(b)、オマー・ハキム(ds)、ケニー・カークランド(key)と今名前を見てもワクワクするようなメンツだ。
彼らはバンド名こそないが長年演奏をともにしてきたバンドのような素晴らしい演奏を聞かせる。スティングのソロ作品でありながら、ソロのような気がしないのはそのせいかもしれない。通常ならリード・ギターが担うソロを、ブランフォード・マルサリスのソプラノ・サックスやテナー・サックスが担っているので、それもアルバムにジャズ・ロック的な雰囲気を与えている。
でも基本的には『ブルー・タートルの夢』はロックだと思う。それも英国のロックだ。ヒット曲「セット・ゼム・フリー」、冷戦を歌ったメッセージ・ソング「ラシアンズ」、トラディショナルな雰囲気の「チルドレンズ・クルセイド」。南国風の「ラヴ・イズ・ザ・セヴンス・ウェイヴ」など、スティングというイギリス人の世界観、心情が詰まった曲が並ぶ。何よりスティングのヴォーカルがすばらしかった。
『ブルー・タートルの夢』は80年代を象徴するようなソリッドなサウンドだ。今回ハイレゾで聴いても80年代に買ったレコードと同じ印象を持ったが、ハイレゾならではと感じたところも多い。たとえば「セット・ゼム・フリー」のタンバリンの粒だちの良さ、コーラスの繊細さはハイレゾならではと思う。シンセサイザーの音もきめ細かくなって味わい深い。高域の強い音作りでもハイレゾでは懐の深さが違うと知った。
アルバムの後半のほう、LPレコードならB面でジャズっぽい曲が登場する。「コンシダー・ミー・ゴーン」の4ビート、インスト「ブルー・タートルの夢」のアコースティック・ピアノ、そしてミュージカル風にも感じてスティングのメロディ・メイカーとしての才能を感じる「バーボン・ストリートの月」などだ。これらはデジタル楽器が少ないからか中低域のほうに軸足を移した音づくりになっていると思う。こちらもハイレゾでの聴きどころだ。
そういえばオーディオ・マニアに有名な高音質レーベル“モービル・フィデリティ・サウンド・ラボ”がこのアルバムを1990年に高音質CDでリリースした。通常のCDと違ってオーディオ・マニア向けに制作されたCDである。80年代ロックにも高音質化する伸びしろがあったのかとその時知ったわけだが、たしかに今ハイレゾで聴いてみると、そこかしこに豊かなサウンドを感じる。
ちなみにLPの『ブルー・タートルの夢』はたぶん僕が80年代に買った最後のほうのLPレコードになる。このアルバムが発売された1985年、日本でCDプレーヤーが爆発的に普及しはじめたのだ。僕もこの年にCDプレーヤーを買った。あとはCD一直線になる。スティングの次のアルバム『ブリング・オン・ザ・ナイト』(ライヴ・アルバム)はCDで買った(当時のCDはとても高かった)。続く『ナッシング・ライク・ザ・サン』もCDを友人から借りて聴いたことを思い出す。
その『ナッシング・ライク・ザ・サン』もハイレゾ化されている。これも名盤で今回どちらをとりあげようかと迷ったほどだ。あと1996年の作品『マーキュリー・フォーリング』もハイレゾ配信されている。『マーキュリー・フォーリング』は今回ハイレゾで初めて聴いたのだが、以前のアルバムとは違うアプローチをしながらも、80年代作品と同じような新鮮さが感じられてとても気に入った。これもスティングの名作と思う。あわせてハイレゾで聴いてほしい。


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