こちらハイレゾ商會
第23回 ハイレゾで“カラヤン vs バーンスタイン”ふたたび?
20世紀を代表する指揮者レナード・バーンスタインのハイレゾがとうとう配信された。1970年代後半、バーンスタインがヨーロッパに活動拠点を移してウィーン・フィルと録音したベートーヴェン交響曲全集と、ベルリン・フィルとのライヴ録音で“一期一会の演奏”と言われたマーラーの交響曲第9番である。これらはLPからCD時代にかけて超名盤として人気のあったアルバムだから、クラシック・ファンは待ちに待ったハイレゾ化だろう。
バーンスタインがハイレゾで登場したことで、かつてクラシック界を賑わした“カラヤンvsバーンスタイン”がふたたび再熱するかも、と思うのは僕だけだろうか。
カラヤンはすでにたくさんのタイトルがハイレゾで配信されている。グラモフォン時代だけでなく、ワーナー(旧EMI)のタイトルまで多数配信されているのだから、カラヤンはハイレゾでも“帝王”と言っていいかもしれない。
ハイレゾのタイトル数で見るかぎりはカラヤンの圧勝である。これではこのエッセイも終わってしまうので、ここはバーンスタインのハイレゾに合わせて、ベートーヴェンの交響曲全集での対決を想定したい。
すなわちカラヤンは1960年代初頭に初めてベルリン・フィルと完成させた全集。対してバーンスタインは1970年代後半のウィーン・フィルとのライヴ録音による全集。これならカラヤンとバーンスタインががっぷり四つに組んだ形だ。
ベートーヴェンの交響曲は9曲あるが、僕の場合、カラヤンとバーンスタインの違いは、交響曲第3番「英雄」で堪能している。
第1楽章、カラヤンはさっそうとした演奏だ。まだフルトヴェングラー時代の響きを残すベルリン・フィルを溌剌と引っ張っていく。ここには70年代以降のカラヤンが得意とした過剰なレガートはない。第2楽章の「葬送行進曲」でさえ、切れ味のよい盛り上がりを聴かせる。
一方、バーンスタインの第1楽章は、エネルギッシュな印象とは違って、ジックリと進む感じである。しかしジワジワとエネルギーを溜めていくところが、やはりバーンスタインなのだ。まるで噴火直前の火山のようにマグマを溜め込んでいく。それが爆発した時といったら……。
じつのところどちらも素晴らしい全集である。“カラヤンvsバーンスタイン”と書いたものの、勝敗などつけるつもりはなかった。ハイレゾの音を聴いてもそれは変わらない。カラヤンは60年代らしいガッツリしたアナログ録音が堪能できる。初期のステレオ録音だけれど、こういう音が気に食わないオーディオ・ファンがいるだろうか。バーンスタインのほうは、現代のライヴ録音のクオリティには劣るものの、柔らかいアナログ・サウンドが十分にそれを補い、ライヴの熱気を伝えてくれる。
願うのは、今後バーンスタインのハイレゾが増えて、カラヤンのハイレゾと同じくらいのタイトル数になることだ。その時こそ、真の“カラヤンvsバーンスタイン”の始まりだ。70年代、80年代にクラシック界を賑わした両雄が、ハイレゾでも注目となるだろう。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンpo
『ベートーヴェン: 交響曲全集』
(1961〜1962年録音)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンpo
『ベートーヴェン: 交響曲第3番「英雄」 & 第4番』
(1962年録音)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーンpo
『ベートーヴェン: 交響曲第1番 & 第2番』
(1978年録音)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーンpo
『ベートーヴェン: 交響曲第3番「英雄」』
(1978年録音)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーンpo
『ベートーヴェン: 交響曲第4番 & 第5番「運命」』
(1977〜1978年録音)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーンpo
『ベートーヴェン: 交響曲第6番「田園」』
(1978年録音)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーンpo
『ベートーヴェン: 交響曲第7番 & 第8番』
(1978年録音)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーンpo
『ベートーヴェン: 交響曲 第9番「合唱」』
(1979年録音)