こちらハイレゾ商會
第27回 2015年を振り返って〜セット物など“嬉しい悲鳴”の一年
今年最後の『こちらハイレゾ商會』は、2015年のハイレゾをe-onkyoの配信で振り返ってみようと思う。といっても、個人的な好みと独断で書くのは今まで通りなのでご了承願いたい。
一言で言って2015年は“ハイレゾも一般的になった”という前口上が必要なくなったほど、ハイレゾがあたりまえだった年だと思う。とにかくリリースが多かった。ハイレゾ配信は黎明期を終え、次の段階に入った気がする。
なかでも印象に残っているのは、ひとりのアーティストのハイレゾがまとめて出るパターンである。以前からあったが、今年はインパクトがとくに強かった気がする。
そのなかでは、
岩崎宏美のシングル曲がまとめてハイレゾ化されたのが個人的にはうれしかった。岩崎宏美の豊かなヴォーカルが聴きどころで、70年代らしいアナログライクな音を堪能できた。ほかにも
河合奈保子や
岡田有希子のアルバムがまとめて配信された。
アイドル以外でも、
オフコースや
RCサクセションなど、邦楽アーティストの一挙リリースが続いた年だった。オフコースのファースト『オフ・コース1 / 僕の贈りもの』では、コーラスが大変美しく聞こえた。もともと楽曲は美しかったが、ハイレゾでは音質も味わい深い。
岩崎宏美
『ハイレゾ体験!岩崎宏美』
オフコース
『オフ・コース1 / 僕の贈りもの』
大量といえば、“セット物”の印象も大きかった。CDのボックス・セットは何年も前から大人気であるが、その流れがハイレゾにもやってきた気がする。
“セット物”と言っても、ハイレゾはCDボックスのように、実物を手に持って所有感を味わうことはできない。しかし、ずらりと並んだトラックの“視覚的な満足感”は十分だし、ダウンロード時間は、それこそ十分すぎるほど(笑)。ハイレゾの“セット物”も、CDボックスと同じく中毒症状になることは間違いないだろう。
その“セット物”、クラシックなら名ヴァイオリニスト、
イツァーク・パールマンの『The Complete Warner Recordings 1972 - 1980』が印象的だった。
ヴィヴァルディから
ストラヴィンスキーまで、たくさんのアルバムが収録されているにもかかわらず、お値段が驚異的にリーズナブル。でも音質はやはりハイレゾらしく、たとえば
パガニーニの「24の奇想曲」では、ヴァイオリンのヒステリックなまでの見事な“叫び”を味わえる。
あとパールマンほど大がかりではないが、
ラファエル・クーベリックの『マーラー: 交響曲全集』、まだマーラー・ブームがおこる前の全集。これもクラシック・ファン泣かせの“セット物”だ。
イツァーク・パールマン(vn)
『Itzhak Perlman - The Complete Warner Recordings 1972 - 1980』
(1972〜80年録音)
ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送so
『マーラー: 交響曲全集』
(1967〜71年録音)
ジャズでは、
キース・ジャレットのハイレゾ化が話題であった。名作『ザ・ケルン・コンサート』の配信は、いっときほかのハイレゾ・タイトルを霞ませたほどである。
ロックのハイレゾでは、
デヴィッド・ボウイの初期音源を収録した『ファイヴ・イヤーズ 1969-1973』であろうか。これも“セット物”である。ボウイが5年間に制作した曲がずらりと並ぶトラック・リストは壮観である。さらには、
トッド・ラングレンの70年代のアルバムを集めた『The 70's Collection』(これまた“セット物”)も忘れられない。
キース・ジャレット
『ザ・ケルン・コンサート』
(1975年録音)
デヴィッド・ボウイ
『ファイヴ・イヤーズ 1969-1973』
(2015年)
トッド・ラングレン
『The 70's Collection』
(2015年)
レッド・ツェッペリン
『プレゼンス(リマスター)』
(1976年)
ポール・マッカートニー
『タッグ・オブ・ウォー(デラックス・エディション)』
(1982年)
最後に、e-onkyoでDSFの11.2MHzの配信が始まったことも、2015年のニュースだと思う。SACDの規格である2.8MHzを超える5.6MHzでもすごかったのに、11.2MHzである。あの名作『Jazz at the Pawnshop - Late Night』も11.2MHzでリリースされている。オーディオファイルなら、こちらから攻めていっても楽しいだろう。
アルネ・ドムネラス(as, cl) / ゲオルグ・リーデル(b) / ベンクト・ハルベルク(p) / ラルス・エルストランド(vib) / イジール・ヨハンセン(ds)
『Jazz at the Pawnshop - Late Night』
(1976年録音)
ということで2015年のハイレゾ界はリスナーにとって“嬉しい悲鳴”をあげた一年だった。この流れでいくと2016年は今年以上の「絶叫マシン」となることは間違いないだろう。シートベルトはしっかり締めて、しかし財布のヒモは緩めて(笑)、2016年も思い切り悲鳴をあげたいと思う。