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第44回 ピンク・フロイド『1972 Obfusc/ation』 レア音源集で聴く『雲の影』は『狂気』の前哨戦
ピンク・フロイドのレア音源を収録したハイレゾが出た。全6タイトルの大規模なもので、デビューの1968年から72年まで年ごとにまとめられている(最初のみ65〜67年を収録)。「原始心母」や「エコーズ」にまつわる音源など、ファンには興味深いものばかりだ。
全6タイトルの内容は多様にわたっているので、それは各自で聴いてもらうことにして、今回はそのひとつ『1972 Obfusc/ation』について書いてみたい。ピンク・フロイドの72年の音源を収録したものである。
72年と言えば『おせっかい』が発売された翌年であり、『狂気』が発表される前年となる。2枚の人気アルバムの狭間となる期間である。収録曲はシンプルだ。72年発表の『雲の影(Obscured by Clouds)』と『ピンク・フロイド・ライヴ・アット・ポンペイ(Live at Pompeii)』。どちらも2016年リミックス・ヴァージョン。
僕としては今回のハイレゾに感謝しなくてはいけないだろう。というのも、この『1972 Obfusc/ation』で初めて『雲の影』を“いいアルバムだなあ”と知ったからである(今まで聴いてなかったのですよ)。
『雲の影』は当時進行中だった『狂気』の録音を中断して録音しただけあって、ギルモアのギターのウネリ、メイスンのドラムの刻み、それからヴォーカルの香りなど、随所に『狂気』のエッセンスが伺える。映画のサントラとして制作されたせいで、いずれも小品であるところを除けば、『狂気』の前哨戦とも言える仕上がりだ。
ハイレゾで聴く『雲の影』は潤いがあって重厚だ。あのピンク・フロイド・サウンドがある。『狂気』はアナログ・レコードの発売時からオーディオ・ファイルが好む高音質であったが、この2016年リミックス版『雲の影』のハイレゾも『狂気』を思わせるハイファイだ。そんなところも『狂気』と兄弟的な聴き方ができるだろう。
『1972 Obfusc/ation』に収録されている、もう一つの音源『ピンク・フロイド・ライヴ・アット・ポンペイ』も意義深い。72年に公開された同名の映像ドキュメンタリーの音源である。
この映像は当時NHKの『ヤング・ミュージック・ショー』でテレビ放送された。まだ海外ロックの映像を日本人が目にすることの難しかった時代だ。当時僕は中学3年生、お茶の間の日立のカラーテレビで見た時のショックたるや、とても今書くことはできない。この72年をもって自身のプログレ元年としているのは、このテレビ放送を見たからである。
それぐらい衝撃の『ピンク・フロイド・ライヴ・アット・ポンペイ』、昔の思い出を壊したくないと、映像はあえて今日まで見ないようにしてきたが(笑)、音なら大歓迎である。「吹けよ風、叫べよ嵐」や「エコーズ」といった曲を聴くと、懐かしさがこみ上げる。
しかしハイレゾはとうてい昔を懐かしむ次元ではない音質である。『雲の影』に比べると、やや硬質であるが、それでも伸びやかな音だ。いまこの音で『ピンク・フロイド・ライヴ・アット・ポンペイ』を聴けるのは嬉しい。
今回のレア音源集はどれもよくあるボーナス・トラックのレベルではない。人によっては別の巻の未発表音源に感激することだろう。ハイレゾを聴いていると、再びピンク・フロイドへの熱い思いが沸き起こってきそうである。
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ピンク・フロイド
『1972 Obfusc/ation』
(2017年)