季節ごとに楽しみにしているものはたくさんある。ちょうど今くらいの時期、春から夏に向かう時の楽しみの一つになっているのが、冷やし中華だ。
私たちの事務所のすぐ近くに、人情横丁という商店街がある。そこには食料品店や雑貨店、飲食店などが立ち並んでいる。その中に信吉屋というラーメン店があり、そこの冷やし中華を食べることがここ数年の楽しみになっている。今年はそろそろ始まったかな? と様子を見に行ったり、でもまだ涼しいからと思い少し先延ばしにしたり。そうこうしていたらマネージャーから「明日冷やし中華を食べに行きませんか?」と誘われ、すぐに行くことを決めた。
当日はちょうど暑い日で、冷やし中華を食べるのにぴったりの気候だった。店に着いた時には満席で、少し待ってから入店した。お店はご夫婦で切り盛りされており、おもにご主人が調理を担当している。注文が入り、奥さんがご主人に伝えるとそのメニューを口に出して繰り返し、ときどき合間に「ちょっと待ってねー!」と言いながら調理している。食べている間もずっと聞こえてくるその声にじんわりと癒される。信吉屋の冷やし中華は細めの麺に錦糸卵や細切りにしたハム、なると、きゅうりがたっぷりのっていて、大きめに切ったレモンとチャーシュー、からし、が添えられている。今まではからしを溶かしすぎて終盤つらくなることばかりだった。今年の私は失敗しないぞ。食べ進めながら少しずつ味を見てからしを足していった。いい感じ。途中でレモンを絞るとさっぱりとした感じが増してこれまた美味しい。残り少なくなってきた頃、つまり今までは辛さに耐えていた頃に、ふわっと香るゴマの存在に気がついた。目では認識していたが、からしの辛さに引っ張られてあまり感じられていなかったのだ。この冷やし中華の美味しさを最大限に味わえたのかもしれないと思うと少し嬉しくなった。
夏だけのお楽しみが始まった。また暑い夏の日に食べに行きたいと思う。