川江美奈子連載「時雨月夜ニ君想フ−letters−」 - Chapter 7 川江美奈子の魅力に迫る!&リクエスト中間発表
掲載日:2008年10月15日
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楽曲を提供したアーティストたちへの手紙により、セルフ・カヴァー・アルバム『letters』に収録された一曲一曲の背景が見えてきました。今週は川江美奈子のシンガー・ソングライターとしての魅力をおさらいしつつ、募集中の実演希望リクエストを中間発表! また、『letters』を実際に聴いた方々の生の声もご紹介します。
Special Article
その時々の感情のグラデーションを
美しく、質の高いポップスへと導いていく――
シンガー・ソングライター、川江美奈子の魅力

オーセンティックな音楽性に繋がった
ア・カペラ〜バークリー〜武部聡志との出会い


 中島美嘉の「桜色舞うころ」、今井美樹の「祈り」、平原綾香の「孤独の向こう」……。これらの楽曲はすべて、川江美奈子の手によるものだ。聴く者の心をグッと掴む豊かな叙情性、洗練されたポップスとしての完成度を併せ持った彼女の歌は、数多くのシンガー、クリエイターによって愛され、高い評価を得てきた。ここでは、オーセンティックな才能を持つシンガー・ソングライターである彼女の魅力について、そのキャリアと楽曲を通じながら紹介していきたい。
 まずは、その経歴から。大学時代にコーラス・サークル“street coner symphony”に在籍していた彼女は、92年にア・カペラ・グループ“TRY-TONE”を結成。94年にメジャー・デビューを果すが、その3年後にはグループを脱退し、米国・バークリー音楽院でピアノと編曲を学ぶ。彼女の楽曲からほのかに感じられるジャズのエッセンスは、おそらくこのときに吸収したものだろう。
 99年に帰国した彼女はまず、作詞・作曲家としての活動をスタートさせる。この時期、彼女の転機になったのは、武部聡志との出会い。松任谷由実ら数多くのシンガーを手掛けてきた武部は、彼女の才能を高く評価し、その作品を積極的に起用。それにともない、川江美奈子の知名度も少しずつ上がっていった。そして2004年、ついに彼女は、シングル「願い唄」でシンガー・ソングライターとしてのソロ・デビューを果した。


内向的な感情を切なく綴った『時の自画像』と
感情のベクトルを外へ解き放った『この星の鼓動』


 2005年4月に発表されたファースト・アルバム『時の自画像』は、過去のさまざまな経験〜そこから生まれた感情と現在の自分への影響〜さらに未来へのほのかな希望をノスタルジックな空気のなかで描いた作品となった。時の流れとともに大きくなっていく“あの人”への想いを綴ったバラード・ナンバー「そのとき」、コーラス・グループ時代の思い出がベースになっている歌詞とジャズ・テイストのサウンドがゆったりと溶け合う「tuner fork」、会いたくても会えないもどかしさ、痛みにも似た恋愛模様をリリカルに表現した珠玉のラブ・バラード「恋」、日本的な情緒を感じさせてくれるメロディ――それもまた、彼女の作風における、大きな特徴の一つだ――が印象的な「たとえうた」。十分にソフィスティケイトされながらも、奥深いエモーションを伝える楽曲、恋愛の切なさをたっぷりと響かせるヴォーカリゼーションなど、この時点で彼女は、その音楽性の本質をしっかりとアピールすることに成功している。武部のプロデュースのもと、小倉博和(g)、田中義人(g)、三沢またろう(perc)、溝口肇(vc)といった一流のミュージシャンたちが参加したサウンド・メイクも素晴らしいクオリティを体現している。

 2006年5月にはセカンド・アルバム『この星の鼓動』をリリース。彼女のベーシックなスタイルであるピアノの弾き語りによるバラード「誰かが誰かを」ではダイナミックなメロディラインを奔放に歌い上げ、河村“カースケ”智康(ds)、種子田健(b)による生命力あふれるリズムが心地いい「relationship」では、“この世界のなかで、確かな絆を作り上げよう”というメッセージを響かせる。中島美嘉に提供し、大ヒットを記録した「桜色舞うころ」のセルフ・カヴァーを含む本作で彼女は、そのソングライティングをさらにカラフルに発展させてみせた。また、アレンジにおいても、その可能性を大きく広げている。ソウル・ミュージック〜ジャズの要素をさりげなく取り入れたAOR風のポップ・チューン「三月生まれ」、本格的なボサ・ノヴァにトライした「あなただらけ」、そして、ア・カペラによる「かざうた」(透明感あふれる声と濃密な感情表現が一つになったヴォーカリゼーションは、まさに絶品!)などが、その好例と言えるだろう。幅広いソングライティングと色彩豊かなサウンド・メイクを取り入れながらも、“儚くも真摯な思いを歌い上げる”という軸は揺るがない。そのコントラストこそが、このアルバムの魅力なのだと思う。


大きな転機となった楽曲「ピアノ」と
繊細な感情がストレートに響く『letters』


 この秋リリースされたセルフ・カヴァー・アルバム『letters』は、彼女のソングライティングの豊かさを示す一枚と言えるだろう。郷愁に溢れたメロディが胸に迫る「つないで手」(一青窈)、不安と寂しさを乗り越え、自分の力で人生を歩いていこうとする決意を綴った「孤独の向こう」(平原綾香)、軽やかな響きのなかに、凛とした意思を感じさせる旋律が印象的な「滴」(今井美樹)、日本的な情緒を2000年代のJ-POPへと昇華させた「桜色舞うころ」(中島美嘉)、激情とでも言いたくなるような恋愛模様を、十分に洗練された表現のなかで映し出した「足跡」(今井美樹)、遠い場所にいる“きみ”を想いながら、また会える日を夢見る「夢暦」(平原綾香)、愛する人を受け入れ、ずっと一緒にいたいというストレートな気持ちを歌った「ありのままでそばにいて」(郷ひろみ)。また、全編“ピアノの弾き語り”というスタイルも、楽曲の本質、そこに宿った繊細な感情をまっすぐに響かせるという意味において、正しい選択だったと思う。その臨場感あふれる演奏からはきっと、彼女のライヴ・パフォーマーとしての魅力も感じ取れるのではないだろうか。

 そして、もう一つ、もともと彼女自身が歌い、2007年10月にシングルとしてリリースされた「ピアノ」のセルフ・カヴァーについても触れておきたい。自身の病気の体験から、“旅立っていく人の気持ち”を描いたこの曲は、“死”を色濃く感じさせながらも、聴き終わったときには“いま、この瞬間をしっかりと生きていきたい”という前向きな感情が残る。時の流れという儚さを認識しながらも、“生”に対する思いを強く伝えていく――「ピアノ」はおそらく、シンガー・ソングライター、川江美奈子の核の部分を端的に示す楽曲なのではないだろうか。
 ノスタルジックな空気、恋愛における溢れんばかりの情念、そして、自分の生を全うしたいという強い思い。その時々の感情のグラデーションを、美しくソフィスティケイトされたソングライティングによって、質の高いポップスへと導いていく。川江美奈子の素晴らしさを説明すれば、そういうことになるだろうか。すでに豊かなキャリアを持っている彼女だが、ソロ・デビューから5年目を迎えたいま、その音楽はさらに実りある季節を迎えつつある。最新作『letters』に触れれば、きっとそう感じてもらえるはずだ。

文/森 朋之

【LIVE SCHEDULE】 川江美奈子 夜想フ会〜letters〜

【日程】 11月20日(木)
【会場】 キリスト品川教会 グローリア・チャペル
【時間】 開場 18:30 開演 19:00
【料金】 全席指定 4,800円(税込)
※お問合せ先 :ホットスタッフ・プロモーション/https://www.red-hot.ne.jp/
※詳しくは川江美奈子オフィシャル・サイト/https://www.minakokawae.com/
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