KOKIA連載 心は世界に旅をするII〜KOKIA<REAL WORLD EUROPIAN Tour 2010>ドキュメンタリー - Chapter.1 ツアー回顧・前編〜東京→ハンガリー→パリ→モスクワ
掲載日:2010年11月19日
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 今年で5年目になるヨーロッパ・ツアー。今年はハンガリーでのイベントに参加した後、モスクワからスタート。そこで、ここではツアーの序章とでもいうべき、モスクワ公演までの行程をKOKIAさんに振り返ってもらいました。


モスクワにて


――5年目のヨーロッパ・ツアー。今回のスケジュールにはこれまでに行ったことのない国や地域もかなり含まれていましたね。
 KOKIA(以下、同) 「そうですね。ヨーロッパでツアーを行なうようになって今年で5年目の節目を迎え、このタイミングで“パリで大きなコンサートを開く”という選択肢もあったと思うんです。その方が大きな会場でたくさんの方が来てくださったと思うし、大きな心配をすることなく、成功を収めることができたと思います。けれど一方では、これからのことを見据えながら、ヨーロッパという大きな括りのなかで開拓、種蒔きをしていくというやり方もあって。現地のプロモーターと相談しながら私が選んだのは、後者だったんですよね。チャレンジな道ではあるけれど、ある程度成功が見えていることよりも、新しい国、新しい場所にどんどん行ってみないことには、広がらないじゃないですか」
――前向きな選択ですね。KOKIAさんらしいと思います。
 「そう言っていただけると嬉しいですね。なかなか容易ではないスケジュールや初めての取り組みも多かったですけど、終わった今、振り返って想うことは、やはりやってみてよかったということ。ホントに。最初は正直、どうなるか想像できなかったんです。組まれたスケジュールにある国と国の距離感もわからなかったし――実際に移動してみると、思った以上に大変だったんですけど(笑)――ものすごい距離を移動しながらの中、3日連続での公演が2回もあったんですけど、日本では考えられないようなスケジュールでしたからね」
――めちゃくちゃハードですよね。
 「ええ(笑)。でも、移動し続けて、挑戦し続けることで“ワールド・スタンダード”っていう言葉が持っている寸法っていうのかな、それを自分のなかで養っていく、培っていく感覚が持てたんですよね。それはこれからの自分にとっても、すごく勉強になったと思います。いままでと同じようなヨーロッパ・ツアーではなく、今回、国や本数の規模を広げたことで、もっともっといろんなものが見えてきたんですよね。ヨーロッパという大きな視点を持てるようになったというか。今回“パリで大きなライヴをやる”という方法を選んでいたら、そういう世界は見えなかったと思います」
モスクワにて
――ツアーのスタートはモスクワですが、その前にハンガリーのイベントに出演されたそうですね。
 「エキスポですね、日本文化に興味がある人たちに向けた」
――ハンガリーにもそんなイベントがあるんですね。ニューヨークやパリでは以前から行なわれてましたけど。
 「今回のツアーのなかで気づいたことが2つあって、1つは“どこの国にも日本人は住んでいる”ということ。もう1つは、“どの国にも日本文化を愛している外国人の人たちがいる”っていうことなんです。当たり前のことのようんだけれど、遠い国で私の歌を応援してくれている外国人の人に会うのもとても嬉しいことですし、遠い国で頑張っている日本人の人を見かけるのも、本当に嬉しいものなんです。そういうことも、実際に行ってみないとわからないと思うんですよね。日本で暮らしていると、かなり特殊な情報しか得られないんだなって、ホントに感じました。世界のなかの、ほんの一部だけを見ながら生きてるのかもしれないなって」
――なるほど。ハンガリーに着いてみるとギターが壊れてた、という話がブログにアップされてましたが……。
 「飛行機に乗ってる間に壊れちゃったみたいなんですよ。私もビックリしましたけど、ギターの松尾さん(松尾和博)がいちばんビックリしてました。まだ1公演もやっていないのに……って。公演用にスペアのギターももちろん、用意してあったんですけど、“音が出るんだったら、自分のギターがいい”ということで、ガムテープで亀裂や穴をふさいで、なんとか演奏していただいたんです」
モスクワにて
――ショックですよね、いきなり。
 「でも、1つショッキングな出来事が起こることで、他のことが緩和されることってないですか? 普通の状態だったらすごく大変なことも“大丈夫”って思えるというか、“がんばらないと”っていう気持ちになれたんですよね。その後もいろいろありましたけど、(ギターが壊れていたという)最初の出来事があったおかけで、その他のこと、多少のことはぜんぶ乗り越えられた気がします」
――鍛えられますね、いろんな意味で。
 「逞しくなりますよ(笑)。ちょっとくらいのハプニングは気にならなくなりました。何ていうか、日本でミュージシャンをやるのと世界の土俵でミュージシャンをやるのは、まったく違うことの様な気がするんですよね。モチベーション、スタンス、求められるものが違う。極端な言い方をすると、全く違う職業をやってるような感覚です」
――ブタベストでのライヴは、かなりの大観衆だったとか。
 「うん、すごかったんです。1,500人から2,000人くらいのお客さんがいたと思います」
――ライヴの雰囲気も熱気がありました?
 「すごくいい雰囲気でした。“ハンガリーにやっとKOKIAが来てくれた!”っていう感じで、みなさん盛り上がってくれて。初めての国に歌を届けに行く時は、やっぱりそういう感じなんですよね。ウェルカム・モードで皆さん私を迎え入れてくれます。とっても嬉しいことです。これで2回、3回と行くようになると、とても不思議なことですが、どこの国であってもだんだん“KOKIAのコンサートはこういうふうに見るものなんだな”っていうのが理解していただけるようになるんですよ。1対1で聴き入ってくれるというか。じっくりと皆さんそれぞれに歌を楽しんでくれる感じです」
モスクワにて
――確かにそうですね。ブタペストの街の印象はどうでした?
 「私はコンサートのために訪れてただけなので、街を見るのにそんなにたくさんの時間がある訳ではありませんでした。それでもドナウ川を眺めながらいろいろなことに想いを馳せたりしました。国や街は通りすがっただけでは到底その良さは分からないので、コンサートで訪れただけであまり“好き、嫌い”っていうのは適切な表現ではないと思うんですけど……ここだけの話、ヨーロッパの国も色々ですが、今の私にはたくさん足を運んでいるパリの方がなんだかしっくり来るものがあることを確認できたのも、今回、いろいろな国を訪れたことで分かったことの1つです。パリの人たちはみんな“ブタペストはよかったでしょ?”って言うんですよ。“KOKIAは日本から来てるからヨーロピアンな雰囲気のパリのほうがいいって思うかもしれないけど、パリに住んでる僕たちはブタペストのほうに惹かれるんだよね”って。確かにブタペストは古い街で、歴史を感じさせる建物も多いですからね。いろんな国の人たちと仕事をしていると、そういう会話も楽しいんですよ」
――なるほど。ツアー全体のことを考えても、初日のモスクワ公演の前にイベントに出演できたのは意味があったのでは?
 「そうですね。実際に行ってみてわかったんですけど、現地のヨーロッパのプロモーターさんの認識としては“ブタペストの公演が初日”というつもりでいたみたいでした。私達はロシアが初日だと想っていたので、日本ではそのようにインフォメーションしていたんですけど。エキスポという大きなイベントだったことの効果もあったと思いますが、ハンガリーにたくさんの人が私の歌を聴きに来てくれたことは、2010年のツアーにとってもよい幕開けだったんじゃないかなっと思います。何より、これから始まるヨーロッパ・ツアーへの私たちのテンションがとても上がりました」
――モスクワのライヴにもよいテンションで臨めました?
 「モスクワはいろんな意味で想像とは違う驚きの連続でした(笑)。まず、ロシアの現地のプロモーターさんがどちらかというと、ロックな音楽を中心にサポートしてる方だったので、会場選びもクラブみたいなところだったんですよね。個人的には面白かったんですが、KOKIAの音楽を届けていく環境としては、“ここはどうなのかな?”っという場所でした。初めての国でコンサートを作る時はこうしたことがよく起こるものです」
モスクワにて
――難しいところがあるかもしれないですね。
 「今回のヨーロッパ・ツアーのまとめ方は、まずヘッドのプロモーターとして、パリのプロモーターさんがいて、彼らが各地、各国のプロモーターとやりとりをして、各地のコンサートを決めて行ってくれてたんです。だから私自身は、直接ロシアやその他各国の現地プロモーターとは話をしていません。もちろん、初めてでも、開場選びやプロモーションが上手くいった国もあって、例えばそのいい例がウィーンでした。でも、今回は上手くいく国、多少課題が残る国、いろいろあった思うのですが、まさにそのことを知りたかったんです。さまざまな国の人と仕事をすると、1つコンサートを作るといっても、やり方や感覚がそれぞれ相手によって違います。なので、その国のプロモーターが何を大事にしていて、どういう感覚でハコ(会場)を選んでるかということなど、いろいろと勉強になりました。そういう意味では、モスクワでの経験もすごく勉強になりました」
――もちろん、“歌を届ける”ということに関しては、どこの国も同じでしょうし。
 「そうですね。モスクワのライヴは正直、お客さんは開場満杯ではなかったんです。でも、私が歌っているときに聴いてくれているお客さんの反応だったり、雰囲気、終演後にお客さんと話したときの印象から、“ずっと待ってました。やっと来てくれた”という、彼らの嬉しそうな気持ちが伝わってくる時、それはすごく励みになったし、“大事に耕して、水をやっていけば、モスクワでもKOKIAの音楽に触れて、何か心に感じてくれる人が増えていくんじゃないかなぁ?”というそんな手ごたえも持てたんですよね。もちろんそう、容易なことではないと思いますけど。ハードルは高いほどやる気が湧きます。誰もやったことのないことこそ、やってみたいと思います(笑)」
取材・文/森 朋之
※次回は、<ツアー回顧・中編〜ポズナン→ウィーン→ミュンヘン→マルセイユ>についてのインタビューです。


Column[もう一つのヨーロッパ・ツアー回顧〜OUT TAKE 01]
モスクワの印象、出来事


 私、モスクワに行くのは今回が初めてだったんですけど、日本に住んでいると、モスクワの情報って限られているというか、市民レベルの生活がどういうものなのかは、ほとんどわからないじゃないですか。なので、私の中でモスクワはどこかミステリアスなイメージのある国というイメージがあったんですけど、私が今回、滞在中に感じたことは、モスクワは今まさに、経済発展の真っ只中にあって、“お金さえ出せば、何でも手に入る”というようなギラギラした印象を受けました。街に出るとどうしても派手なものが目に入ってくるので、お金を持っている人達が目立って目に入ってきたのかもしれませんが、何時になっても飲食店や遊ぶ場、空港などオープンしていて、24時間眠らない街だなぁっという印象を受けました。遊ぼうと思えば一晩中遊べるような気がします。

 宿泊したホテルも、まるで映画のようなすごくインパクトのある所でした。住宅地の中、集合団地のような建物ののあるフロアだけがホテルになっていて、 入り口はとてもホテルがあるような場所には見えないんですよ。“え、ここですか? ホントにホテルなんてあるの?”って誰もが思ってしまうような場所です。けれどドアを開けるとそこにすごくキレイなホテルのロビーがあって。何というか、上手い表現が見つからないけれど、“なんだかイリーガルな人たちを匿ってあげるためのアン・オフィシャルな場所”っという雰囲気がぷんぷんしていて、“大丈夫なのかしら?”っというような体験をしました。(笑)。

 モスクワでもう1つ印象に残っているのは、タクシーの運転の荒っぽさ。ヨーロッパは全体的に車の運転が日本より荒い国が多いですけど。モスクワはほんとにすごかった! “このスピードでぶつかったら、死んじゃう”って思うほどのスピードで平気で飛ばしてゆきます。ホントに。座席で「うわー、怖い!」って言っていたら、運転手さんがフロントミラー越しに私のことを見て“ふふんっ”って笑っていました(笑)。きっとあちらでは普通のことなんですかねぇ? こうして想い返すと、恐い目、酷い目、エラい目にあったなぁっと思えることほど、印象的に旅の想い出を彩ってくれているものですね。
<REAL WORLD Tour 2010>ツアー・スケジュール

10月08日 Koncert(ロシア・モスクワ)

10月09日 Blue Note(ポーランド・ポズナン)

10月12日 Haus der Muzik(オーストリア・ウィーン)

10月13日 Feierwerk(ドイツ・ミュンヘン)

10月15日 Poste a Galene(フランス・マルセイユ)

10月16日 Sidecar(スペイン・バルセロナ)

10月17日 la Dynamo(フランス・トゥールーズ)

10月20日 la Carene(フランス・ブレスト)

10月22日 Islington Academy2(イギリス・ロンドン)

10月23日 Cafe Lichtung(ドイツ・ケルン)

10月24日 Theatre Michel(フランス・パリ)
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