■“ザ・フレンチ・サウンド”のシンボルラムルー管弦楽団
(C)Rouge 202
ステレオタイプかもしれないが、ファッショナブルでカラフル、そして古いものと新しいものが混在しているパリのイメージに似合ったサウンドとは……。
フェイサル・カルイ
(C)Paul Kolnik
100年以上の歴史を有し、
ドビュッシーや
ラヴェルほか多くの作品を初演したという勲章をもつラムルー管弦楽団は、今回のラ・フォル・ジュルネ(以下、LFJ)において“ザ・フレンチ・サウンド”のシンボルになるだろう。しなやかな旋律の歌い回し、軽快なリズム、個々の主張が際立っている管楽器群、ほのかな官能性で魅了する弦楽器群、そして適度に人間的(笑)なアンサンブル。音楽監督フェイサル・カルイの、まるで音楽のエネルギーを指揮棒で(綿菓子製造器のように)操る光景も見ものとなるはずだ。
ラムルー管弦楽団は、ホールA“ボードレール”において8回のコンサートを行なう。彼らを重点的に聴くだけでも、主要な作曲家と名曲が聴けてしまうのはラッキーだ。
たとえば1日目のランチタイムには、彼ら特有のすっきりオシャレ型「ボレロ」や、夢見るような「亡き王女のためのパヴァーヌ」という最高級のおもてなしを受けられるコンサート
[112] がある。ラヴェル流のウィンナ・ワルツ「ラ・ヴァルス」と、ユーモラスなサン=サーンスの「死の舞踏」では、カルイのエレガントな指揮ぶりも楽しめるだろう。
2回目
[114] はドビュッシーの作品(一部は編曲)が並び、オーケストラ全体が生きもののように活気づく「海」、官能美の極地である「牧神の午後への前奏曲」が聴ける。
夜になると雰囲気は一変し、有名なフレンチカンカンの音楽も含むオッフェンバック・ワールドに
[116]。オーケストラの色彩感と輝きが発揮されるコンサートであり、まるで「さあ、夜はこれからだよ!」とばかりに、にぎやかなステージと踊り子たちが見えてきそうだ。
■ホールAで3日間名曲三昧!アンヌ・ケフェレック
(C)Kourtney Roy
ラムルー管弦楽団の快進撃は2日目も続く。ランチタイムのコンサート
[212] では2人のゲスト・ソリストが登場。まずはLFJの常連にして永遠のチャーミングなミューズ、
アンヌ・ケフェレックが演奏する
サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番だ。そしてナント(フランス)のLFJでも客席をおおいに湧かせた“カスタネットの女王”ルセロ・テナがステージへ。スペイン製オペレッタ『ルイス・アロンソの結婚式』からの小品を華麗に聴かせ、聴衆の心を鷲づかみにするだろう。
夜のコンサート
[215] はラヴェルづくし。
小山実稚恵をソリストに迎えるピアノ協奏曲では、オーケストラからさまざまな色の光が放射され、ジャズに興じるパリジャンの姿が見えるはずだ。
3日目は朝の“0歳からのコンサート”
[311] に登場した後、ほとんど同じプログラムを午後のコンサート
[313] でも披露する。とくにユーモラスな
デュカスの「魔法使いの弟子」と、情熱と光の国スペインを音楽で見事に捉えた
シャブリエの「スペイン」が聴きもの。
そしてLFJ3日間のラスト・コンサート
[316] では、総決算とばかりに「ボレロ」が演奏され、フラメンコ・ギタリストのカニサレスが独特の音楽言語で演奏する「アランフェス協奏曲」(第2楽章)、さらには再び登場のルセロ・テナが華麗な楽器さばきで音楽祭を締めくくってくれる。
ラムルー管弦楽団を3日間追い続けるだけでも、十分に名曲を堪能できるのだ。
■ラヴェルで聴くパリの流行最先端アブデル・ラーマン・エル=バシャ
ほかのおすすめコンサートもご紹介しよう。どの作曲家がいいのだろうと迷っているなら、19〜20世紀におけるパリでの音楽的流行をどんどん取り入れた、ラヴェルの曲を集中的に聴いてみてはいかがだろう。華麗な『ダフニスとクロエ』からの音楽[
211 =“0歳からのコンサート”/
345 ]や、ロマンティックな「亡き王女のためのパヴァーヌ」
[171/112/146/126/215/321] 、ピアノ協奏曲
[113/126/215] と左手のためのピアノ協奏曲
[216/345] などは必聴。大人の魅力漂うアブデル・ラーマン・エル=バシャの、ソロ・ピアノ曲シリーズ(全3回)もおすすめだ
[171/253/374] 。
リディヤ&サンヤ・ビジャーク
(C)Carole Bellaiche
ベル・エポックの香りが漂うオシャレ作曲家、
フランシス・プーランクの音楽も捨てがたい。ローランサンやロートレックが似合う音楽であり、2台のピアノのための協奏曲(ビジャーク姉妹という名花2人による演奏)などが演奏されるコンサート
[142] に注目を。
19世紀前半に活躍した
ベルリオーズの名作「幻想交響曲」
[312] と、大編成好きな一面が爆発した吹奏楽曲「葬送と勝利の大交響曲」
[344] は、「フランス音楽って繊細な音ばかりでもの足りない」と思っている方に最高のプレゼントとなるだろう。この2曲は
ベートーヴェンや
ワーグナーなどドイツ音楽陣営に対する、パリからの回答だ。
今回の『パリ、至福の時』ではフランス音楽とともに、パリで学ぶなどしたスペインの作曲家たちも主役の仲間入りをしている。マヌエル・デ・ファリャもその一人だが、ドビュッシーの影響をもろに受けた作品として、ピアノ協奏曲風の「スペインの庭の夜」
[214] をおすすめしておこう。今回のLFJにおいてフランス代表がラヴェルだとするなら、スペイン代表はファリャで決まりだ。