ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2013 - 第4回 憧れのスペイン〜パリで花開いたスペイン音楽
掲載日:2013年04月15日
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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2013
第4回 憧れのスペイン〜パリで花開いたスペイン音楽
文/伊熊よし子
※本文中の[ ]にある数字は公演番号です。

※ご紹介した公演のチケットはソールドアウトとなっている場合もございます。最新情報、各公演のタイムテーブルは“ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」2013 公式サイト”(https://www.lfj.jp/lfj_2013/)をご確認ください。
 今年のラ・フォル・ジュルネ(以下、LFJ)のテーマは“パリ、至福の時”。このプログラムのなかに、スペインの作品が多数含まれている。なぜ、“パリ”と銘打ったテーマにスペイン作品が入っているのだろうか。ここでは、その理由をひも解いてみたい。

■スペインのエキゾチシズムに触発されて

サン=サーンス

 じつは、世界各地の作曲家の作品のなかで、スペインを題材にしたものはかなり多い。とくにヨーロッパ諸国に住む作曲家たちは、スペインのエキゾチシズムに触発され、数多くの曲を生み出している。

 モーツァルトロッシーニグリンカリムスキー=コルサコフR.シュトラウスリストショパンボッケリーニD.スカルラッティらがスペインのリズムや舞曲の要素を取り入れた作品を書いた。フランス人もまた、自分たちとはまったく異なったアイデンティティをもつ隣国スペインに強い興味を抱いている。

 たとえばラロはスペイン系のフランス人ゆえ、自分のなかの血が赴くまま作曲の筆が進んだのではないだろうか。ヴァイオリン協奏曲第2番「スペイン交響曲」はスペインの土の香りそのものが感じられる。

 サン=サーンスは何度もスペインを訪れた作曲家である。ヴァイオリンと管弦楽による「序奏とロンド・カプリッチョーソ」、ヴァイオリンとピアノによる「ハバネラ」など、スペインの舞曲を用いた傑作があるが、ヴァイオリンと管弦楽による「アンダルシア奇想曲」も豪快で楽しい [113/172/313]

 シャブリエもスペインに旅行してインスピレーションが湧いた作曲家である。管弦楽曲では狂詩曲「スペイン」を書き、ピアノ曲では「ハバネラ」を残した。ピアノ曲『10の絵画風小品』のなかの第5曲「ムーア風舞曲」もスペインの印象から書かれたものである [311/313]

ビゼー

 もちろん、有名なビゼーの『カルメン』はスペイン色満載である [173/274/314/341]

 そしてドビュッシーラヴェルも、スペインにちなんだ名曲を書いている。

 ドビュッシーは管弦楽曲『管弦楽のための映像』のなかの「イベリア」とピアノ曲『版画』のなかの「グラナダの夕べ」で、スペイン情緒をあますところなく表現した。ただし、彼は一度もスペインを訪れたことはなかった。作曲家のイマジネーションとは、すごいものである [152/163/362]

 ラヴェルといえば、「ボレロ」。ラヴェルの母親はバスク地方出身で、彼もスペイン国境に近いシブール村で誕生した。「ボレロ」以外には管弦楽曲「スペイン狂詩曲」、歌劇『スペインの時』を書いている。ほかに遺作となった歌曲「ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン=キホーテ」がある [216/244/311/316]

■ジャンルを超えた異文化交流

サラサーテ

 こうしたフランスの作曲家と密度の濃い交流を行なったのが、ピレネー山脈を超えてパリを訪れたスペインの作曲家たちだった。

 名ヴァイオリニストとして知られるサラサーテは、12歳になったときにスペイン女王に招かれてマドリードの王室劇場でリサイタルを開き、このときにパリへ留学する援助金が与えられている。行き先はパリ国立音楽院。卒業後はパリを本拠に世界中をまわり、半世紀近くにわたって名演奏を披露した。このサラサーテのヴィルトゥオーソぶりは、サン=サーンスをはじめブルッフヴィエニャフスキら多くの作曲家から作品を献呈されていることからもうかがい知ることができる [113]

アルベニス

 アルベニスも結婚後、妻の希望でパリに住み、ダンディショーソンフォーレドビュッシーデュカスらと交流を深め、新しい作曲技法を会得していった [127/256/257/368]

 ファリャもパリに出て、デュカス、ドビュッシーらフランスの作曲家たちと親交をもった。新鮮な空気に触れたファリャは、帰国後その成果をスペインの土壌に根差した作品へと盛り込んでいくが、そこにはパリで吸収した洗練された作曲技法、近代フランスのしゃれたエスプリがただよっている [143/145/163/214/224/251/264/334]

 フランス系の血を引くモンポウもまた、少年時代はパリで和声学などを学んだが、作曲はほとんど独学だった。彼は20代から40代にかけてパリで活躍している [263]

 こうしたフランスとスペインの作曲家が活躍していた19世紀後半から20世紀前半のパリは、世界的な文化都市としてさまざまな芸術が花開き、ジャンルを超えて異文化の交流が盛んに行なわれ、お互いの才能に触発され、創造的なエネルギーに満ちあふれていた。

 今年のLFJでは、その時代の息吹がみなぎるプログラムが組まれ、“至福の時”が味わえる。これらの音楽を聴くと、絵画、文学、彫刻、哲学、建築から食にいたるまでさまざまな面に興味が湧いてくる。まさに五感が刺激されるのである。

 これが“音楽のもつ力”ではないだろうか。パリの黄金期の音楽に耳を澄ますと想像力を喚起され、フランスとスペインの作曲家たちの才能に触れて感性が磨かれる。さあ、異文化が交流したすばらしき時代の空気を全身で浴びて五感を刺激しましょう。きっと眠っていた細胞が目覚めますよ!
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