連載【ラ・フォル・ジュルネの歩き方】
第2回 LFJの達人に聞く“私のハシゴ計画”
4月3日のチケット一般発売に向けて、タイムテーブルと睨めっこしながら、どの公演を聴きに行くか作戦を練っている方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、ナントのLFJにも足を運んだ達人に“私のハシゴ計画”を立てていただきました。3日間の行動スケジュールに沿って、注目公演をご紹介します。
※時刻の後に記されている3ケタの番号は公演番号です。
※各公演の詳細は連載第1回の
タイムスケジュールをご参照ください。
文/飯尾洋一
■5月2日
時刻 | 公演番号 | 公演内容 |
---|
9:45〜10:30 | 131 | ピエール・アンタイ |
11:00〜12:00 | 屋台村 |
12:00〜12:45 | 122 | アンリ・ドマルケット、ブリジット・エンゲラー |
13:45〜14:30 | 123 | 小菅優 |
15:15〜16:00 | 154 | ルイス・フェルナンド・ペレス |
16:00〜19:00 | マスタークラス、展示、夕食 |
19:30〜21:30 | 115 | ミシェル・コルボ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア、ローザンヌ声楽アンサンブル 他 |
ピエール・アンタイ
(C)Celine_Lemaire
「
ショパンは朝、ピアノの練習をまず
バッハの平均律ではじめた」というエピソードにちなんで、今回は毎朝
ピエール・アンタイがバッハを弾いてくれる。鬼才アンタイのバッハ(131)はぜひ聴きたい、しかし“朝練”は苦手だ。そこで早起きプログラムは体力と気力に余裕のある初日に行くことに。バッハを聴いた後はいきなり屋台村へ。混雑を避けるため食事時間は早めにシフトする作戦。スパイシーなエスニック系カレーで熱狂の発汗。
午後はまず
アンリ・ドマルケットの演奏で、日頃なかなか聴けないショパンのチェロ作品を(122)。今回の音楽祭で一度は聴きたいチェロ・ソナタ。続いて
小菅優の
メンデルスゾーンへ(123)。このプログラム、じつは今年のナントのLFJ取材で同じ公演を聴いているのだが、これが圧巻。感銘を受けたナントのお客さんたちが、一人また一人と立ち上がり拍手を送っていた光景が印象に残っている。今年の注目株ルイス・フェルナンド・ペレスのショパン(154)も聴いておきたい。
アリシア・デ・ラローチャの弟子筋だが、クールで引き締まったショパンはナントでも好評だった。
もし可能であれば、この後、マスタークラス(出演アーティストによる公開レッスン)なども見学できれば理想的。夕食は会場外へ。
そして夜はこの日のハイライト、メンデルスゾーンの大作オラトリオ『パウロ』だ(115)。この曲をLFJで聴けるなんて! しかも
ミシェル・コルボだ。シブい選択かもしれないし、2時間の長さは本来LFJの規格外だが、ここでしか体験できない深い感動が待っている。主を賛美する人も賛美しない人もウエルカム。
■5月3日
時刻 | 公演番号 | 公演内容 |
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13:00〜13:45 | 243 | マリア・ケオハネ、フィリップ・ピエルロ指揮リチェルカール・コンソート |
14:30〜15:30 | 213 | イーヴォ・ポゴレリッチ、ゲオルグ・チチナゼ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア |
17:00〜17:55 | 214 | オルガ・ペレチャツコ、ボリス・ベレゾフスキー、ドミトリー・リス指揮ウラルpo |
19:30〜20:40 | 215 | 『ショパンの葬送』 |
オルガ・ペレチャツコ
初日は朝が早かった。だから翌日はペース配分も考えてのんびりと午後から参加。まずはマリア・ケオハネと
フィリップ・ピエルロ指揮
リチェルカール・コンソートによる
ヘンデルのオペラ・アリア集から(243)。これは初日にも一公演あるが、ぜひオススメしたい強力プログラム。選曲がすばらしい。ヘンデルの「私を泣かせてください」はじめ問答無用の名曲がずらり並び、その天才的メロディ・メーカーぶりにあらためて驚かされるはず。これもナントで同じ公演を聴いたが、楽しくてしょうがなかった。
続いては音楽祭最大のサプライズ、
イーヴォ・ポゴレリッチのピアノ協奏曲第2番へ(213)。以前から「意外な大物ピアニストが参加するらしい」と耳にしていたが、まさかこの人とは。尋常ではない演奏会になる予感。
夕方はドミトリー・リス指揮ウラル・フィル(214)。美貌の歌姫オルガ・ペレチャツコと豪腕ヴィルトゥオーゾ、
ボリス・ベレゾフスキーを一度に聴けるお得感あり。ペレチャツコはナントでは群を抜いた人気を誇っていた。彼女が歌うと会場はブラボーの嵐。東京のLFJでは出番が少ないのが残念だが、この夏にエクサン・プロヴァンス音楽祭への出演も決まっており(大野和士指揮リヨン歌劇場管弦楽団と共演)、まさにスターダムを駆け上がりつつある新星だ。華やいだオーラがある。
夜はミシェル・コルボの『ショパンの葬送』(215)。ショパンの遺言に添った選曲で、実際の葬儀の再現プログラムだ。この公演は最終日にもあるが、聴きたい裏番組と重なるので2日目に。
■5月4日
時刻 | 公演番号 | 公演内容 |
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13:30〜14:15 | 343 | ピーター・ウィスペルウェイ、ジョセフ・スウェンセン指揮パリco |
15:45〜16:30 | 324 | 河村尚子 |
17:00〜18:15 | 無料公演、夕食 |
18:45〜19:30 | 356 | 『クレール・オプスキュール(暗がりのコンサート)』 |
20:30〜21:15 | 347 | ゼスポール・ポルスキ |
22:15〜23:00 | 348 | 6人のピアニストによる「ヘクサメロン」変奏曲 |
ゼスポール・ポルスキ
(C)Marc_ROGER
最終日は夜遅くに魅力的な公演があるので、この日も午後からスタート。まずは
ピーター・ウィスペルウェイのチェロでシューマンのチェロ協奏曲から(343)。この曲の濃厚で少々鬱屈したロマンティシズムが大好きなのだ。しかもチェリストは最高。
続いては
河村尚子(324)。世界的に活躍する今もっとも注目される日本人ピアニスト。ぜひ一度は生で聴いておきたい。夕方は夜に備えて少し早めに食事を取っておく。会場の外へ出てもいいし、最終日の夕方は屋台村も比較的空くかもしれない。
で、夜は迷う。ホールB7のショパン・ソロ作品全曲演奏にも惹かれるし、ホールCのモーション・トリオも気になるのだが、思い切って『クレール・オプスキュール(暗がりのコンサート)』(356)はどうか。これ、要するに覆面ピアニスト対決なのだ。誰が弾くかはわからない。これは悩む。盛り上がってくれるだろうか? 賭けである。
謎の演奏会の後はホールD7の
ブルーノ・リグットに後ろ髪を引かれつつ、ゼスポール・ポルスキ(347)へ。ポーランドの民俗音楽グループだ。ショパンに影響を与えた伝統音楽と、民俗音楽側から再構成されるショパン。土の香りのするショパンが聴けるだろう。
おしまいはお目当ての「ヘクサメロン」変奏曲へ(348)。ショパン、リストら6人の作曲家によるベッリーニの主題による合作変奏曲であるが、これを6台ピアノ版(!)に編曲して演奏するという。壮観。終演は23時になるが、お祭りを締めくくるには最強の演目だ。
イメージイラスト:イジー・ボトルバ