真心ブラザーズ20周年記念 4週連続企画『YOUNGER THAN YESTERDAY』。最終回となる今回は桜井秀俊のソロ対談をお届け! お相手は東京スカパラダイスオーケストラのトロンボーン奏者にして、桜井のサーフィンの師匠でもある北原雅彦。顔を合わせた瞬間から「最近、行ってる?」「全然です」といった感じでサーフィン話に花を咲かせる両者だけに、この日の対談も当たり前のように話題はサーフィン中心(笑)。フリー&イージーなノリで気ままな会話が進んでいくかと思えば、終盤でサーフィンと音楽との深イイ話が飛び出したり。“NO SURF,NO LIFE”な二人のトークを存分にお楽しみください。 「北原さんは師匠“的”存在ではなくて、
完璧に師匠です(きっぱり)」(桜井)
──東京スカパラダイスオーケストラと真心ブラザーズは、ほぼ同時期にデビューしてるんですよね(※スカパラ:1990年/真心:1989年)。
桜井秀俊(以下、桜井) 「そうです。僕らの方が1年ほどデビューが早いんですけど、たしか僕らがデビューした年にスカパラの最初のレコードが出てると思うんですよ」
北原雅彦(以下、北原) 「黄色いジャケットのやつ(『東京スカパラダイスオーケストラ』)ですね」
桜井 「その時期に僕、スカパラと
ビブラストーンが対バンしたライヴを観てるんですよ。たぶん芝浦インク(芝浦インクスティックファクトリー)だと思うんですけど。僕は客席で酒飲んで大騒ぎしてました(笑)」
──普通にファンとして(笑)。
桜井 「単なるファンです(笑)。だからデビューが決まって、同じ事務所に入ることが決まったときは嬉しかったですよ。“やった、スカパラと一緒だ!”って」
──桜井さんはスカパラのどのあたりにグッときたんですか?
桜井 「やっぱりライヴの面白さですよね。肉感的で踊れる感じというか。それに僕はもともと大人数のバンドが好きなんですよ。スカパラにビブラストーン、吾妻光良&The Swinging Boppersとか。だからMB'sをバックに大編成でやれるようになったときは、すごくうれしかったですね。あとスカパラと真心で対バン・ツアーをやらせてもらったのも、個人的にすごくうれしかったです」
北原 「〈STAND!〉ですよね。たしか、あれは1998年かな」
──お二人が本格的に仲良くなったのも、そのときなんでしたっけ。
北原 「そうです。〈STAND!〉の打ち上げで、桜井くんが“僕もサーフィンを始めたいんですけど”って話しかけてきてくれて」
桜井 「ぜひとも、いろいろ教えていただこうと」
北原 「そのとき冬だったんですよ。普通は、夏になってから始めるっていうパターンが多いんですけど、桜井くんは“今すぐ始めたい”と。気合の入り方がハンパじゃないなと思いました」
──そもそも桜井さんは、なんでサーフィンを始めようと思ったんですか?
桜井 「秋の日に国道134号線をブーンと車で走っていたら台風にもかかわらずサーフィンしてる若者たちがいて。めちゃめちゃ時化(しけ)なのにガンガン波に向かっていってるんですね。そんな彼らの姿を見て“なんて命知らずなアホどもなんだ”と思ったんですよ。そこでサーファーに対する軟弱なイメージが180度変わったんです。波に乗ってる姿も美しいし、これは究極の独り遊びだなって。ちょうど同じ時期に、スカパラとのツアーが決まったんで、十何年来のサーファーである北原さんに教えを乞おうと思ったんです。そしたら、北原さんが大いに食いついてくれて、僕をサーフィンに連れていってくれたんですよ。最初は北原さんのショート・ボードを借りて、波に浮かぶところからスタートしました」
北原 「桜井くんとは一時期、頻繁に波乗りに行ってたよね」
──じゃあ、北原さんは桜井さんにとって、サーフィンの師匠的存在というか……。
桜井 「師匠“的”存在ではなくて、完璧に師匠です(きっぱり)」
北原 「そんなことないです(笑)。特別なことは何もしてないですよ」
桜井 「うちの師匠は結構スパルタなんです(笑)。“身体、反って!”、“こいで、こいで!”って。最初から厳しく教えていただきました」
北原 「“基本はパドル!”みたいな(笑)」
桜井 「しかも常に、いい波が立ってるところを教えてくださるんですよ。いろいろポイントを変えながら波に乗るんですけど、最初は師匠に着いていくのが精一杯でした」
北原 「サーフィンでは背筋とか普段使わない筋肉をいっぱい使いますからね」
桜井 「北原さんサーフィンで鍛えてるから凄い肉体してるんですよ。その人が、ボードに座って、こうやって、すごい存在感を発しながら波を探しているわけです(※下写真参照)。そりゃあ、迫力ありますよ(笑)」
桜井 「とにかく北原さんは常に本気なんです。たとえば、“明日、この時間に出発しましょう”って約束して、当日、5分前に北原さんのお家に到着すると、すでに家の前で屈伸運動しながら待ってるんですよ(笑)。しかも、めちゃくちゃ真剣に」
北原 「ははは」
桜井 「時間を無駄にしない人だな〜って」
── 一緒に呑みにいったりは?
桜井 「夜の付き合いはないです(きっぱり)。北原さんとは朝の付き合いしかしてません(笑)」
──めちゃくちゃ健康的じゃないですか(笑)。
桜井 「そうですね。千葉に行ったり舞鶴に行ったり、北原さんにはいろんな所に連れていってもらいました」
北原 「そうやって2人で、しょっちゅう海に出かけていたんですけど……あれは忘れもしない、1999年の2月2日。桜井くんが一人で海に行ったことがあって」
桜井 「ああ。辻堂ですね。僕が事故に遭っちゃったんですよ。サーフィン中に足を19針縫う怪我をしちゃって。YO-KINGさんと俺のソロ・アルバムが出るっていう時期だったから、各種プロモーションを全部、YO-KINGさんに押し付けて(笑)。いやあ、大人になってから、あんなに叱られたことはなかったですね(笑)」
北原 「桜井くんが使ってた板は重いから、そのぶん衝撃もすごかったんだろうね」
桜井 「ドカンとボードが足に当たって、そのまま波に巻かれちゃったんですよ。それで、“うわ、骨が折れたかも!”と思って、でも以外に浅い場所だったから試しに立ってみたんですね。そしたら、なんとか立てて、“よかった〜”と思ったんだけど、ふと足を見たら、血がドバドバ出てて、'全然よくね〜!'って(笑)」
北原 「親切な人が桜井くんを助けてくれたんだよね」
桜井 「そうなんです。ボーッと海を眺めている若者がいたんで、その人に“すいませーん!”って声をかけて救急車を呼んでもらって。しかも、その人、僕のこと知ってたんですよ。真心ブラザーズの桜井だって(笑)」
北原 「相手の人はビックリしたでしょうね。“なんで、この人、こんなところで血まみれになってるんだ!?”って(笑)」
桜井 「相当ビックリしてました(笑)。近所のアパートに住んでた大学生だったんで、後日、お礼を持っていきました。残念ながら留守だったんで、ドアの前にお礼の手紙と一升瓶を置いてきましたけど」
「サーフィンをやると、力の入れどころと
抜きどころが分かるようになります」(北原)
──今日も顔をあわせるやいなやサーフィンの話を始められてましたが(笑)、普段からあんな感じなんですか。
北原 「そうですね。“最近、行ってる?”ってところから、会話が始まって(笑)」
桜井 「でも、僕は最近、全然行けてないんですよ。前は夏だと週に1、2度は海に行ってたんですけど。子供を持つと、ワーク・ライフ・バランスがなかなか大変で……」
北原 「それは素晴らしいことですよ。僕なんて行き当たりばったりでここまできちゃった(笑)。その点、桜井くんは計画的な人生を歩んでいますから」
桜井 「いやいや(笑)。でも、夏なのに、こんなに肌が白いのが、どうにも悔しくて。ちょっと切ないですね」
──ぽっかり空いた心の穴を最近は何で埋めているんですか?
桜井 「最近は芝居や落語を観にいくようにしてます」
──また桜井さん、落語とか似合いそうですよね(笑)。
桜井 「前から興味はあったんですけど、実際、寄席に足を運ぶようになったのはここ最近なんです。もちろん周りは、お爺さん、お婆さんばっかりですけど(笑)」
──“下手したら俺がいちばん若いんじゃないか!?”ぐらいの。
桜井 「そうそう(笑)。横浜の桜木町に(司会者の)玉置宏さんが館長を務めている'横浜にぎわい座'というところがあって、そこでやってる名作落語の会に足を運んでいます。3,000円ぐらいで2時間半から3時間、落語を楽しめるので、月イチ程度で通ってるんですよ。最近はそんな感じで、すっかりインドアな感じになっちゃってますけど、やっぱり海に行ってリフレッシュしたいところではありますね。ポーンと魂を開放されて帰ってくるというか。波に乗る感覚って、ライヴに近いものがありますよね」
北原 「たしかに共通する部分は多いと思います」
桜井 「自分を空っぽにして、大きなものに向かっていく感じとか。考えたら負け、みたいなところもありますから」
──サーフィンをするようになって音楽面にもどこかしら影響はありましたか?
桜井 「それはすごくありますね。波ってとても力が強いから、まともにブチ当たったらいけないんですよ。要は、いかにして大きな力を利用して、遊ばせてもらうかっていうことなんですよね。そういう考え方って自分のモノ作りにも、すごく影響を与えていると思うし、もっといえば生活全般に影響を与えているとも思うんですよね。あとは、どうにもならないときに無理せず、流れに身を任せる感覚とか」
北原 「力の入れどころと抜きどころみたいなものが分かるようになりますよね。それってライヴをやるときにも、すごく大事なところですね」
桜井 「サーフィンをやることで、いい波を見逃さない癖も身につきました。“このチャンスを逃してはならぬ!”って。本当にあらゆる面で変化があったと思います。実際、顔も変わりますから」
──顔もですか?
桜井 「一時期、海に行ってから仕事に直行するっていうことをよくやっていたんですけど、やっぱりマネージャーとかにバレるんですよね。“桜井さん、今日、海行ったでしょ”って。日に焼けたとかじゃなく、顔付きからして違うらしいんですよ。どうも、さっぱりした顔になるみたいですね。そう考えてると俺は今、ストレス溜まってるのか(笑)」
北原 「その気持ち分かるなあ。僕も忙しくて海にいけなくなると波の夢見たりしますから(笑)」
桜井 「特にスカパラは『蟹工船』ばりに忙しいし(笑)」
北原 「それでも、なんとか時間を作るようにしてますけどね。こないだもツアーで高知に行ったとき、6時に起きて2時間かけて海に行って、2時間サーフィンして、また2時間かけて戻って、それからライヴやりましたから」
桜井 「凄い! 北原さん、なんか年々、元気になってませんか(笑)?」
北原 「そうなんですよ。前は海の帰りって、すごく眠かったんだけど、最近は全然、大丈夫なんですよ」
桜井 「僕も生活に追われてる場合じゃないですね(笑)。今のお話聞いて背筋が伸びました。やっぱり芸人たるもの、そっち側に行かなくちゃ。もうちょっと嫁に泣いてもらおうかな(笑)」
北原 「ははは。そのときは、また一緒に行きましょう」
桜井 「ぜひ!」
取材・文/望月哲(2009年8月)
撮影/石井麻木
【北原雅彦 Profile】東京スカパラダイスオーケストラのトロンボーンプレイヤー。1990年、シングル「MONSTER ROCK」でメジャー・デビュー。今年20周年を迎えた。さまざまなセッションに引っ張りだこの腕利きトロンボーン奏者にして、音楽界でもイチニを争う熱心なサーファーとしても知られている。2009年10月7日にスカパラの3年ぶりとなるシングル「KinouKyouAshita」がリリースされる。 ■
https://www.tokyoska.net/