歌うことについて。シンガー・ソングライターについて。

　そんなことをテーマに、この連載の最終回となるエッセイを書かせて頂こうと思っていましたが……。今さらですが、もの凄く難しいテーマですね。

　これまでの自分を振り返るのも、まだ早い気もするし、これからの夢について語るのも、なんだか恐い感じがしてしまいます。

　そういえば、今の私は、“今”のことしか考えていないのかもしれない。明日食べる食材を事前に買って冷蔵庫に置いておけないのです。今、食べたい物を、その瞬間に買いに行くので、冷蔵庫にはいつも水があるだけ……。

　曲を作り歌い始めてから、20代前半は“有名になりたい、メジャー・デビューしたい、認められたい”ということが、いつも最終目標だったし、夢でした。

　でも、何もかもうまくいかず、自信を失って、もう一度生まれ変わる気持ちで駅前路上ライヴを始めてから、歌う目的が、有名になることでもなく、デビューすることでもなく、ただただ“目の前を歩く人の足を止めたい、自分の歌を聴いてほしい”、そんなシンプルな目的に変わっていきました。

　それからデビューのお話を頂いて、今やっているままを、この音楽を全国の人に届けたいと言ってもらえて、デビュー曲「やさしい花」を作ったのが、もう5年前のことです。

　路上ライヴは続けていけるし、何も変わらないと思っていたけれど、この5年間はさまざまな環境の変化との闘いだった気がします。

　単純に“歌を歌う”こと以外で考えなくちゃいけないことが山程ありました。“奥華子はこうじゃなきゃ駄目なんです！”と言いながら、いっぱいぶつかり合った時もありました。

　とにかく、毎日毎日ある何かを、ひたすらやってきて、締め切りまでに曲を作って、ライヴで歌を歌って、その繰り返しの日々でした。“何のために歌っているんだろう”と思ったこともあります。そして、“もっと時間に余裕がある中で、曲を作りたい。”と思ったこともあります。

　でも今は、“限られた時間の中で、今いる環境の中で、どれだけ出来るか、何が出来るか”だと思うようになりました。

　今、一緒にやってくれる人たちがいて、応援してくれる人がいて、歌を聴いてくれる人がいて、自分の歌を信じてくれる人がいるから、自分も自分の歌を信じてあげないと、と思っています。

　“これからの目標は”と聞かれて、“長く歌っていきたい、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。教科書に載るような良い曲を作りたい”と答えることが多いですが、どれも嘘じゃないけれど、いつも何か本当のことをうまく言葉にできていない気がしています。

　でも、１つ確実に思っていることは、＜歌うこと＞は私にとって、社会との繋がりなんだということです。

　誰かが作ったお米を食べて生きているように、誰かが作った橋を歩いているように、私が作ったもので、誰かが何かを感じてもらえたら。やっぱり＜歌うこと＞は１つの役割なんだと勝手に思っています。

　“自分のためにはなかなか頑張れないけど、愛する人のため、誰かのためなら、人は頑張れる”。そんな思いを込めて作ったデビュー曲「やさしい花」は、やっぱり私のテーマになっているんだと、今回この文章を書きながら改めて思いました。

　何十年か後に、今の自分を振り返った時に、“あの頃はよく頑張ってたな〜”と思えるように、冷蔵庫に水だけを置いて、今はひたすら走ろうと思います。