“羞恥心”のメンバーとしての活動を経て、その後は音楽、映画、ドラマなど幅広い分野で才能を発揮している“つるの剛士”。そして、2001年のデビュー以来、演歌の世界で着実にキャリアを積んできたしのぶ。まったく違うフィールドで活躍する2人による対談が実現。テーマの中心は“カヴァー”。つるのは9月16日にカヴァー・アルバムの第2弾『つるのおと』を、しのぶは8月26日にオリジナル曲とカヴァー曲を合わせたミニ・アルバム『しのぶリメンバー「名前の無い恋」』をそれぞれリリース。選曲、レコーディングの様子などをきっかけにしながら、“カヴァーの魅力”“名曲の条件”など、興味深いトークが展開された。 ――まず、お2人の新作について話していきたいと思います。しのぶさんの『しのぶリメンバー「名前の無い恋」』はオリジナル曲「名前の無い恋」「愛はときおり…」とカヴァーが8曲で構成されてますね。
つるの 「カヴァーとオリジナルが一緒になってるんですか? それもいいなあ」
しのぶ 「ありがとうございます。〈名前の無い恋〉と〈愛はときおり…〉は演歌ではなく、歌謡曲なんですね。だから、昔の歌謡曲のカヴァーを入れて、1枚のアルバムにしてみようという話になって。つるのさんの前のアルバム(
『つるのうた』)に入っていた〈オリビアを聴きながら〉(杏里)も歌わせてもらってるんです」
つるの 「聴かせていただきました。当たり前ですけど、印象がぜんぜん違いますよね。しのぶさんは今まではずっと演歌だったんですよね」
しのぶ 「そうです。しっかりコブシを回してる、力強い演歌が中心で。でも、今回のアルバムで歌ってるような歌謡曲もずっと好きだったんですよね。プライベートではよく歌ってましたし」
つるの 「僕は逆に、歌謡曲やJ-POPはぜんぜん知らなかったんですよ。でも、一昨年くらいから歌番組なんかで歌わせてもらう機会が増えて、そのたびに“カヴァー・アルバムを出せばいいんじゃない?”って言われて。最初は“冗談でしょ?”っていう感じだったんですけど、ちょうど羞恥心の活動も一区切りついたし、“じゃあ、ホントにやってみる?”ってことになって」
――今年4月にリリースされたアルバム『つるのうた』ですよね。
つるの 「はい。今回の『つるのおと』は前回のアルバムに入れられなかったもの、“すごくいい曲なんだけど、次の機会にしよう”っていう曲が中心になってるんです」
――J-POPに詳しくないということは、選曲の段階で“こんなにいい曲があったんだ?”みたいな発見もあったのでは?
つるの 「まさにそうですね。〈オリビアを聴きながら〉もほぼ知らなかったんですけど、“すごい名曲だ”って思ったし。原曲をあまり知らないから、レコーディングでは自分なりに歌うしかないんですけどね(笑)。1回だけ原曲を聴いて、あとはもう自分のスタイルで歌ってます」
しのぶ 「譜面を見ながら歌う、ということですか?」
つるの 「いや、譜面は読めないんで。耳コピですよね、言ってみれば。演歌と歌謡曲って、やっぱり違いますか?」
しのぶ 「ぜんぜん違いますね。呼吸法は同じだけれど、歌唱法だったり、声の当て方はまったく違います」
つるの 「でも、技術的なものがしっかりしてるから、対応できるんでしょうね。僕はヴォイトレも受けたことがないし、歌の技術がまったくないと思っていて。だから、“聴いてる人はどう思うんだろう?”っていう不安があるんですよね」
しのぶ 「でも、今回のアルバムもすごく良かったです。ひとつひとつの言葉にすごく気持ちが入っていて、それがこちらにも伝わってきて。元気をもらいました」
つるの 「ありがとうございます」
――カヴァーの楽しさって、どういうところにあると思いますか?
つるの 「オリジナルをやったことがないので比較しようがないんですけど(笑)、一つは聴いてくれた人の反応でしょうね。年代によって反応が違うのは当然なんですけど、たとえば前回のアルバムでカヴァーさせてもらった〈M〉(プリンセスプリンセス)なんて、高校生くらいの子は知らなかったりするんですよ」
しのぶ 「えー、そうなんですか?」
つるの 「〈M〉っていう曲、オリジナルですか? みたいな(笑)。“いや、プリプリの曲だよ”って言うと、今度は“プリプリって何ですか?”って。そういう反応は面白いなって思いますけどね」
しのぶ 「面白いですね、ホントに。でも、歌い継がれている名曲を歌わせてもらうのは、すごく嬉しいですよ」
――逆にカヴァーの難しさもありますか?
つるの 「ありますよ、それは。とくに今回のアルバムで歌わせてもらってるのは名曲ばかりだし、オリジナルを聴くとすごく完成されてるものばかりなんですよね」
――完成された世界観を持つ楽曲を自分なりのスタイルで歌うっていう。
つるの 「そうです。まあ、僕の場合は思い切り自分をぶつけていくしかないんですけどね(笑)。だから、あえてアレンジも原曲に近くしてるんです。テンポやアレンジを大きく変えることはしないで、オリジナルに近い雰囲気のなかで歌う。そうすれば“僕が歌うと、こうなりました!”っていうところがすごく出ると思うので」
――しのぶさんはどうですか?
しのぶ 「私が今回歌わせていただいていたのは、もともと好きな曲ばかりなんですよ。普段からよく歌っていた曲ですし、レコーディングも楽しかったですね。女性の方の曲ばかりだから、気持ちも込めやすかったです」
――つるのさんも女性アーティストの曲を取り上げてますね。「さよならの向こう側」(山口百恵)、「未来予想図II」(DREAMS COME TRUE)という、かなりテクニックが必要な曲もありますが。
つるの 「僕、キーが高いみたいなんですよね」
しのぶ 「そうですよね」
つるの 「だから女性シンガーの曲の方が歌いやすかったりするんです。男性アーティストの曲でも、徳永英明さんの〈レイニー ブルー〉みたいなキーの高い曲とか。しのぶさんが歌われてる高橋真梨子さんの曲(音羽はアルバム『しのぶリメンバー「名前の無い恋」』の中で〈あなたの空を翔びたい〉をカヴァー)も、候補の中にあったんですよ。“あなたが欲しい”っていう……」
しのぶ 「〈for you…〉。いい曲ですよね」
つるの 「そうですよね。いつか歌ってみたいです」
取材・文/森 朋之(2009年8月)
撮影/高木あつ子
※次回、特別対談・つるの剛士×しのぶ〈後編〉