――2人のなかで、強く思い出に残ってる歌謡曲、J-POPというと?
つるの 「なんだろう?
おニャン子クラブとか?」
しのぶ 「流行りましたよね。私の住んでるところは田舎で、あまり放送されてなかったんですけど(笑)」
つるの 「いま聴いても、いい曲が多いんですよ。一番最初に買ったのが
“うしろゆびさされ組”の〈バナナの涙〉なんですけど」
しのぶ 「『ハイスクール奇面組』の主題歌ですよね」
つるの 「そうそう。ホントにいいですよ、あれは。僕がカヴァーしたら、かなり気持ち悪いことになると思いますけど(笑)」
――しのぶさんはどうですか?
しのぶ 「小さい頃だと、
ジュディ・オングさんの〈魅せられて〉が印象に残ってますね。曲ももちろん素晴らしいし、あの衣装もとってもキレイで。“自分もやってみたい”って思ってました」
つるの 「衝撃でしたよね。“あの服、どうなってるんだ?”っていう、ちょっと特撮感覚で見てましたけど」
しのぶ 「(笑)。あとは〈ルビーの指輪〉とか。両親が聴いてたんですよね。あとはもう、演歌ばっかりだったんですけど」
――幼少の頃から演歌が身近にあったのかもしれないですね。つるのさんは洋楽のロックがルーツなんですよね?
つるの 「そうですね。バンドもやってたんですけど、歌うっていうよりは“叫ぶ”っていう感じで。お客さんはダイブばっかりしてる、みたいな」
しのぶ 「そうなんですか?!」
つるの 「そう、だからJ-POPはよく知らないんですよ。でも、バンドで“ウォーッ!”って叫んでるのも、今回のアルバムみたいなカヴァー・アルバムも根本にあるものは同じなんじゃないかなって思うんですよ。気持ちを込める、っていうのはもちろんなんですけど……何て言うか、自分自身がゾクゾクして“ここには何かがある”って感じられるというか。最近気づいたんですけどね、それ」
――“何かがある”というと…?
つるの 「歌番組で歌ってるときなんですけど、たった数分でお客さんが泣いてくれたりするんですよね。こういうことができる表現って、歌だけだと思うんですよ。そういう体験をすると“ずっとやっていきたい”って思うんですよね、やっぱり」
しのぶ 「お客さんが涙を流してくれてると、こっちもグッと来ちゃいますよね。ただ、そういうときに私は“入り込みすぎちゃいけない”って思うんですよ」
つるの 「そこはさすが、プロですよね。僕なんか思い切り入り込んじゃって、たまに声が涙っぽくなってますから(笑)。でも、不思議な感じですよ」
――歌うことでしか得られない感覚かもしれないですね。聴いてる人の気持ちを大きく動かす、名曲の条件って何だと思いますか?
つるの 「うわ、難しいな」
しのぶ 「今回のレコーディングで感じたんですけど、どの曲もとにかくメロディが綺麗なんですよね。初めて聴いた方も“素敵だな”って思うだろうし、何度聴いても飽きることがなくて。それは共通してる条件と言えるかもしれないですね」
つるの 「あとは“どれくらい情景が浮かぶか”でしょうね。名曲って言われる曲は、たくさんの人のなかで、思い出になってると思うんですよ。その曲を聴いた瞬間、そのときの匂い、風景を思い浮かべるというか。それは大事なことだと思いますけどね」
――『つるのおと』にも、つるのさん自身の思い出が反映されてる?
つるの 「うん、それが隠しテーマになってます。初めて出演したドラマの主題歌(〈愛をくれよ〉/福山憲三)が収録されていたり、自分が通っていた小学校の合唱部の子たちにコーラスを入れてもらったり。聴いてる人にはわからないかもしれないけど、こっち側のアウトプットとしてはすごく大事だと思うんですよね。気持ちもより強く込められるというか」
しのぶ 「私もそうですね。どの歌にも思い出があります」
――では、最後に。お互いに質問してみたいことってありますか?
つるの 「どうですか、歌って?」
しのぶ 「え?(笑)」
つるの 「いや、ずっと歌の世界で活動してるってすごいことだと思うんですよ。技術も絶対に必要だろうし、でも、技術だけじゃダメだとも思うし」
しのぶ 「そうですね。よく思うんですけど、歌ってホントに難しいと思うんですよ。4、5分という時間の中で一つのストーリーを伝えなくちゃいけないっていう。プロとしてやらせてもらってるんですけど、いまだに迷うことも多いし、毎日が練習っていう感じですね」
つるの 「すごいですよね。僕の場合は、歌手以外にもいろいろやってるじゃないですか。“俳優のときはこんな感じ、バラエティのときはこんな感じ”っていろんな見せ方ができるし、僕のバックボーンもある程度は知ってもらえてると思うんですよ。たとえば僕が結婚ソングを歌ったら、たぶん聴いてくれる人は僕の家族のことを想像すると思うんですよね。それは自分だけの表現じゃないかなって思うんですけど、プロの歌手の方はそういうことも全部、歌のなかで伝えなくちゃいけないわけですからね」
しのぶ 「なるほど。逆に私は、いろんなジャンルで“つるの剛士”を表現してるのがすごいなって思いますね」
つるの 「まあ、楽しいと思うことをやってるだけなんですけどね(笑)。まずは自分が楽しんで、それを見てる人が少しでも幸せになってくれたらいいなって。そうやって新しいことをどんどんやっていきたいですね」
――しのぶさんにとっても『しのぶリメンバー「名前の無い恋」』は、新しいチャレンジですよね。初の歌謡曲アルバムという。
しのぶ 「そうですね。ずっとやりたいと思ってたことなので、こうやって実現できたことはすごく嬉しいです。演歌のファンの方以外にも、幅広く聴いてもらえたらいいなって」
――つるのさん、次は演歌のカヴァーってどうですか?
つるの 「演歌ですか?!」
しのぶ 「ぜひ!」
つるの 「僕、日本の伝統的なアートって大好きなんですよ。演歌もその一つだと思うんですけど、僕は性格的に“ぜんぶブッ壊して、一から自分で作りたい”っていうタイプなので、どうなっちゃうかわかんないですね(笑)。そういうところはパンクなんですよ、やっぱり」
取材・文/森 朋之(2009年8月)
撮影/高木あつ子