こちらハイレゾ商會
第9回 ディープ・パープルの演奏には、今もオーディオを忘れるくらい熱くなるよ の巻
『Made In Japan』は1972年の来日公演を収めたライヴ・アルバム。LPレコードの発売時は、『ライヴ・イン・ジャパン』と題され日本だけで発売されたレコードだった。その後、あまりの素晴らしさに海外でも『Made In Japan』として発売されたのはご存じのとおり。
これは僕の著書『僕の音盤青春記1971-1976』にも書いたのだが、LPが発売された頃、僕は中学から高校に進学する時期だった。その頃僕はいつもロック好きのMの家にたむろしていた。Mは興がのると、近所迷惑を考えずに『ライヴ・イン・ジャパン』から「ハイウェイ・スター」を大音量でかけたものである。怒濤のような演奏に僕たちは陶酔した。
当時は必ずMからLPを借りて、オープン・リールかカセットに録音したものだったが、『ライヴ・イン・ジャパン』だけは借りなかった。自分の家ではこんなに大きな音で聴くことはできない。『ライヴ・イン・ジャパン』はMの家の“大音量大会”で聴くのがスタンダードになってしまったのだ。
その後大人になってLPもCDも買ったけど、Mの部屋で聴いた『ライヴ・イン・ジャパン』の興奮を超えることはなかった。あいかわらず大音量で聴けない住宅事情もあったけれど理由はそれだけではない。やはり10代前半がいちばん感受性が豊かなのだ。
『僕の音盤青春記1971-1976』 (牧野良幸著 / 音楽出版社)より
前置きが長くなってしまったが、『Made In Japan』のハイレゾである。
今はささやかながら防音室があるので、40年前のMの部屋のように、ハイレゾ音源を大音量で聴いてみる。さあ「ハイウェイ・スター」、スタート!
タタタタ。ダダダダ。ジャーン! ジャーン!
「ノバディゴナテクマイカー!」
左にギター、右にキーボード。ドラムが中心から全体にひろがるように。ベースとヴォーカルは中央。ハイレゾ空間では各楽器の音が、まるでステージ上にライト・アップされたメンバーを見るかのように、整然と、クリアにあらわれる。
とくに
リッチー・ブラックモアのギターと
ジョン・ロードのキーボードは、風通しのよい“空気感”を帯びているよう。イアン・ペイスの豊かで迫力のあるドラム音もきれいに描きわけられている。当時の写真を見るとわかるのだが、ハード・ロックでありながらシンプルなステージが、ハイレゾの高解像度で見事に再現されている気がした。
Mの部屋で聴いたときもそうだし、大人になって買ったLPやCDでも、バンドの音を塊として聴いていた気がする。ここまでの“ステージの再現力”はなかったと思うけどなあ。このハイレゾは『Made In Japan』の決定版となりそうだ。
と、ここまで書いて過去のMの部屋にいる、Mや僕からツッコミが聞えてきそうである。
「おいおい、“空気感”だって? “解像度”だって? オヤジのオーディオ・マニアらしい言葉を覚えたね。お前はオーディオの話ばかりで、音楽に対する感動は失ったのかよ!?」
そう言われたら、こう答えよう。
大丈夫、昔のように一緒にロックを聴く友だちがいないのは淋しいけれど、ディープ・パープルの演奏には、今もオーディオを忘れるくらい熱くなるよ。ただ歳をとって感激することが少なくなったオヤジには、ハイレゾのクオリティがちょうどいい刺激になったのさ。
ということで、ハイレゾでますます熱くなった『Made In Japan』を聴くぞ!
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ディープ・パープル
『Made In Japan』
(1972年)