2009年3月24日、東京・代官山UNITにて、
多和田えみ初のワンマン・ライヴ・ツアーがスタートした。本サイトで紹介しているPVやライヴ動画を観ていただいた人のなかにも、彼女のライヴを心待ちにしていた人もいるだろう。超満員のライヴ前の会場には、そんな大きな期待も感じ取れる空気が流れていた――。ここでは、その東京公演のライヴをレポートする。
「音楽の力って、本当にすごいと思うんですよ。
人を癒したり、力を与えたり、泣かせたり、強くしたり、弱くしたり。
そんな音楽をこれからも、みなさんと一緒に愛でていきたいと思います」
3rdミニ・アルバム
『Sweet Soul Love』のリリースを記念して行なわれた多和田えみ&The Soul Infinityの初ワンマン・ライヴ。会場となった代官山UNITは、デビューのきっかけとなったオーディションが行なわれた場所でもあるのだが、その思い出深いステージで彼女は、ソウル・シンガーとしての溢れんばかりの資質――あらゆるジャンルを含み、超越しながら、深くて強い“魂”を伝えていく――を高らかに響かせてみせた。
ライヴは『Sweet Soul Love』のオープニング・ナンバーでもある「Baby Come Close To Me」で始まった。シンプルで奥深いリズムをたたえたベースを中心とした、シックに抑制されたバンド・サウンドのなかで彼女は、“もっと触れたい、もっと感じたい”というエモーションをゆったりと描き出す。オーディエンスも少しずつ体をゆらしはじめ、会場全体が心地よくグルーヴしていく。2曲目の「Only Need A Little Light」、そして3曲目の「甘く甘くささやいて」(彼女がリスペクトしてやまない、
birdのカヴァー・ナンバー)。ライヴが進むにつれて、彼女の声とバンドの音はしっかりと溶け合い、その熱がゆっくりと上昇していくのがわかる。音楽と自分の境界が消え、すべてがひとつになっていく。こんな感覚を味わわせてくれるシンガーは、そうはいない。
山下達郎の「ドーナツ・ソング」のカヴァーでは、セカンド・ライン系のリズムとともにオーディエンスとのコミュニケーションを深めていく。
「手拍子という楽器を拝借します。一緒に歌いましょう」と言いながら、ニコニコと笑っている彼女を見ていると、とても自然に気分が開放されてしまう。ステージとフロアの壁をナチュラルに取り払う、生まれもっての幸福感が彼女には備わっていると、そんなことを考えてしまう。さらにソウル・ミュージックのエッセンスを含んだアップ・チューン「eternity」、そして、ゆるやかな裏打ちのビートが気持ちいいラヴァーズ・ロック・ナンバー「ゆらゆら」と続け、音楽的快楽度数は一気に上がっていく。今回のライヴに際して彼女は
「いろんなタイプの曲を歌ってるんだけど、私のなかでは全部が繋がっていて。ライヴでは、そのことがわかってもらえると思う」と語っていたが、まさにその通り。さまざまなジャンルをきわめて自然に取り入れながら、本質的なソウル・ミュージックとして昇華していく。それこそが“シンガー・多和田えみ”の根源的な魅力なのだと思う。
そして、2ndミニ・アルバム
『LOVE & PEACE』に収録された「FLOWERS」によって、ライヴはさらなるピークへと達する。2000年代ダンス・ミュージックとしての機能、70年代のフラワー・チルドレンにも通じるピースフルなメッセージを併せ持つこの曲は、まさに彼女を象徴するナンバーと言えるだろう。深遠なスピリチュアル、生々しい肉体性を同時に感じさせるヴォーカリゼーションも本当に素晴らしい。
この夏、全国公開される映画『築城せよ!』の主題歌「時の空」(
Saigenjiの作曲によるオーガニックな手触りのミディアム・チューン)を初披露、「Dance To The Music」(
Sly&The Family Stone)、「Joy To The World」(
Three Dog Night)のカヴァー・メドレーなど、観どころに溢れていたこの日のライヴ。最後に彼女は、音楽に対する想いをこんなふうに語った。
「音楽の力って、本当にすごいと思うんですよ。人を癒したり、力を与えたり、泣かせたり、強くしたり、弱くしたり。そんな音楽をこれからも、みなさんと一緒に愛でていきたいと思います」 音楽が人に与える効果を(ほとんど宗教的なレベルで)信じている僕にとってこの言葉は、何の躊躇もなく共感できるものだった。彼女の歌が持つ気持ちよさ、温かさ、強さはきっと、もっともっとたくさんのオーディエンスによって共有されることになるだろう。その最初の場所を体験できたことを、とても幸せに思う。