未来のザ・ベストテン 第5回 見汐麻衣と羅針盤『せいか』を1位にして考える未来のザ・ベストテン

2024/06/20掲載
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第5回 見汐麻衣と羅針盤『せいか』を1位にして考える未来のザ・ベストテン

 『CDジャーナル』本誌で連載中の『未来のザ・ベストテン』。「この名盤を1位に置いて、いま、そして未来に聴いてもらいたいザ・ベストテンを考えよう!」というこの企画。ひさしぶりに公開されるWeb版第5回は、羅針盤の『せいか』初のアナログ化を祝して、本誌2020年冬号に掲載された、見汐麻衣と羅針盤『せいか』を1位にして考える未来のザ・ベストテンをお送りします。
見汐麻衣
見汐麻衣
※写真は当時ママ掲載
――羅針盤『せいか』(98年)が今回の1位です。見汐さんにとって、このアルバムとは?
 「“気配”が含まれたアルバムです。20歳辺りで初めて聴いて衝撃を受けました。言語化しにくいですが私がいう“気配”というのは“グルーヴ”とは同じようであって異なるものです。アルバム全体を通して作品の中に通底としてあるように感じる「何か」です。当時私もそういう作品を作りたいと思っていたので、ひとつの指針になるような出会いでした」
――羅針盤は“うたもの”という括りのなかで当時は語られることもありましたよね。
 「90年代後半ですよね。あの頃に羅針盤、渚にて、LABCRYなど知りました。ちょうど私が自分のバンド、埋火(うずみび)を始めるくらいのタイミングだったと思います。どうにか形にしたいと考えあぐねていたイメージを“すでに具現化している人たちがいる!”とおこがましくもシンパシーを感じ何度も聴いてました」
――その流れでいうと2位は?
 「渚にての『本当の世界』(2000年)です。曲も歌詞も演奏も至極シンプルなのにふくよかな響き方に対して「すごいアルバムだな」と思って。その理由がなんなのか一聴してもわからない。わからないから毎日聴いていると聴こえ方が変わっていき、“あっ”っていう気づきがあるんですよ。具体的にいうと、“音が消えるまで待って次の音を出す”とかなんですけど。譜面には絶対に書けないリズムを作るための方法というか、一音と一音の間に拍で捉えない「間」を持つとか、そういう発見があって。パズルのピースをひとつずつ見つけていく感覚でした」
――羅針盤、渚にて、ときて3位はLABCRY ?
 「いえ、ここで高田渡さんを挙げます。幼少の頃、叔父さんの部屋で過ごすことが多くて。常にベルウッドやURC、日本のフォークがステレオから流れていて一緒に聴いてたんですね。初めて羅針盤を聴いた時、なぜか高田渡さんを思い出したんです。当時から4畳半フォークみたいなものは好きじゃなかったんですけど、物心つく前から高田渡さんだけは“これ誰?”ってずっと言ってたらしくて。『ごあいさつ』(71年)ってアルバムをずっと聴いてましたね。ウディ・ガスリーや山之内貘を知ったのもそこからだし。他人の曲に和訳とは違う自分の歌詞をつけるスタイルも新鮮でした」
――羅針盤を聴いて思い出したというのも興味深いですけどね。高田渡さんは“自分”を声高に歌うことをよしとしなかった人なので、僕も個人的にはそこは山本さんをダブって感じるところはあります。
 「そういう経験があって羅針盤を聴いた時に懐かしさを感じたんです。自分が幼少の頃に聴いていた音楽とリンクするところがあったのかも。のちに山本さんとライブでご一緒する機会が増えて音楽の話をするようになって音楽遍歴を伺ううちに合点がいく部分があったり。ライブで一緒に演奏する曲を提案する時なんかに例えば田中研二さんの「インスタントコーヒー・ラグ」をやりたいと言うと自然に一緒にやってもらえる感じなどがあって、妙に嬉しかったです」
――続きまして4位です。
 「ボー・ブラメルズの『ブラドリーズ・バーン』(68年)です」
――おっと。でも、洋楽は初登場です。彼らはもともとサンフランシスコのバンドなんですけど、LAに呼ばれてきて、フォーキーなバーバンク・サウンドに変化したバンドですよね。
 「このアルバムも19歳くらいだったかな……初めて聴いた当時めちゃくちゃサイケだなと感じてたんですよ。あと、フォーキーだけどフォークっぽくないなって。このアルバムは埋火の最初のCDR(『朝も昼も夜も』/2003年)を制作する前に聴いていて、下手なりに真似したりしてました。下手すぎて形にならなかったですが」
――5位はLABCRYですか?
 「入れたいんですけど(笑)、ここで石原洋さんのソロ『Passivite』(97年)を」
――見汐さんにとってはプロデューサーでもあった重要人物ですね。
 「羅針盤、渚にてが好きな人の界隈でかならず出てくる名前だったんです。それで気になってソロを買いました。当時の私にとってのサイケって、自分の感覚でしかないんですけど、音楽にただならぬ気配が内包されていることが重要でそれを具現化している日本のバンドってことで私の中では三本柱のように、山本(精一)さんと石原(洋)さんが両極にいて、その間に渚にての柴山(伸二)さんがいたんです。石原さんが5位に入ると、次は石原さんがやっていたバンド、The Stars『PerfectPlaceTo Hideaway』(2005年)が6位です。当時難波ベアーズにライヴを観に行ったんですが、“(すべてにおいて)完璧すぎて怖い”と思いました。完璧っていうのはバンドの演奏が上手いとかではなく、いや……凄いんですけど音にすべきこととすべきでないことがはっきりしているというか。栗原さんのギターなんかはもう聴いていて痺れあがりますし。石原洋 with Friendsでギターを弾くことになった時、栗原(ミチオ)さんのギター・パートを耳コピーしながら1日7時間とかギターの練習をしていました。当たり前ですがまったく弾けませんでした。栗原さんのギタープレイや音は唯一無二です」
――石原洋さん関連が2作続きました。
 「7位はマーゴ・ガーヤンの『テイク・ア・ピクチャー』(68年)です」
――え?これまでと違いすぎ!
 「埋火の初期のライヴ後、お客さんにマーゴ・ガーヤンっぽいと言われたことがあって、気になって買ったんです。当時作っていた曲は無意識に変拍子が入ったりしてたんですけど、曲のアレンジや構成の重要さを考えるようになったきっかけのアルバムです。一聴するとポップスとしても聴けるんですが、彼女が学んでいたジャズやクラシックの要素が活かされていて聴けば聴くほど素晴らしい演奏やアレンジに唸ります」
――そして8位。
 「ついにLABCRYです。どの作品も等しく気だるくて好きです。バンドは特にどんな人と一緒にやるか、メンバーになる人ってとても重要だと思っているし、メンバーが揃った時点である程度サウンドが決まると思っていて。そういう意味で三沢さんがこのメンバーを集めた時点で既に凄いものが出来ているというか。最後のアルバム『LABCRY』(2003年)は今までの作品とは異なる“わかりやすさ”を感じて、当時は“違う!なんだかLABCRYじゃない!”と生意気に思ったりしてたんですけど、繰り返し聴くほど私のミーハーな部分は素直にこのアルバムの良さを感じていたと思います」
――9位はどうでしょう?
 「カンタベリー・ロックのキャラヴァン『グレイとピンクの地』(71年)。サイケでプログレッシブで……それでいてポップで。インタープレイ的な部分を聴いていてもダレない感じとか。リチャード・シンクレアのベースも好きなんですが、彼のボーカルがチャーミングで歌い上げない感じも好き。そこはかとなく叙情的な部分もあって好きです。埋火の後期やMannersの最初のデモ作りの時間はよく聴いていました」
――そして10位。
 「埋火のラスト・アルバム『ジオラマ』(2011年)ですね。自分が当時考えていたアルバム全体を通して感じることのできる“気配”というものを少しは具現化できたんじゃないかと。埋火は今の私にとっては過去のものだけど、特別なバンドだったんだなと思います」
――あらためて見汐麻衣の考える“気配”のある音楽ランキング振り返ってみて、どうですか?
 「巡り巡って何度も聴き直すレコードって、毎回聴こえてくるものが違うんです。自分のコンディションとかもあるでしょうけど、年を重ねて、時間を経て気づくことがあり、聴くたびに発見と驚きがある。今回選んだ作品にもそれがあるのかなと。曲単位というよりも、アルバム作品の中に結果として内包された気配の中に音楽自体が醸し出すもの、作った人達の(無)意識があるのかな。料理でいうところの出汁がしっかり効いているみたいな……」
取材・文/松永良平
今回の未来のザ・ベストテン
1位
羅針盤
せいか
羅針盤
2位
渚にて
本当の世界
渚にて
3位
高田 渡
ごあいさつ
高田 渡
4位
ボー・ブラメルズ
ブラドリーズ・バーン
ボー・ブラメルズ
5位
石原 洋
Passivite
石原 洋
6位
The Stars
Perfect Place To Hideaway
The Stars
7位
マーゴ・ガーヤン
テイク・ア・ピクチャー
マーゴ・ガーヤン
8位
LABCRY
LABCRY
LABCRY
9位
キャラヴァン
グレイとピンクの地
キャラヴァン
10位
埋火
ジオラマ
埋火
次点
見汐麻衣
August Mood
見汐麻衣
次点
スラップ・ハッピー
ソート・オブ
スラップ・ハッピー
次点
ストロオズ
MAZY REPERTER ep
ストロオズ
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