未来のザ・ベストテン 第7回 井上杜和と考える“ビザール”な未来のザ・ベストテン

2025/01/09掲載
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第7回 井上杜和と考える“ビザール”な未来のザ・ベストテン

 『CDジャーナル』本誌で連載中の『未来のザ・ベストテン』。Web版第7回のゲストは 奇天烈な日記ポップスを歌うシンガー・ソングライター井上杜和が登場。井上が選ぶ“ビザール”なベストテン!
井上杜和'
井上杜和
今回のお題
Kno Me
ジェリー・ペーパー
(2022年)
――1999年1月生まれで、今25歳のシンガー・ソングライター井上杜和くんが選ぶランキングの1位は何でしょう?
 「ジェリー・ペーパーの〈Kno Me〉(2022年)という曲です」
――え、いきなり意外……でもないか。長髪に口髭のルックスといい、もっと70年代くらいのロックかと思ってましたけど、杜和くんが作る曲には、ユニークさとかっこよさが共存してるからそういう意味ではわかる気も。
 「今目指してるスタイルが、この人がいちばん近いんです。この曲が好きになったきっかけでした」
――彼はライヴではワンピースを着て、くねくね踊りながら歌うんですよ。
 「あんなおかしい感じで、音楽はかっこいい。曲は開放的なのに歌詞はナイーヴだったりして、その共存も好きです。僕も自分が思っていることを直接的に表現するのがわりと苦手で、“好きだ”と面と向かって言えないタイプで。ふざけた感じで真面目なことを歌うのは、これから目指したい姿勢でもあります」
――自分が音楽面で影響を受けたり、これから目指すスタイルみたいなランキングになっていくのかな。2位は?
 「米津玄師さんが大好きなので〈ゴーゴー幽霊船〉(2012年)を。中高生くらいから聴き始めて、自分のなかで聴いてきた時間がいちばん長いアーティストなんです。ライヴも行ってたし、アルバムも全部聴いてます」
――米津さんがボカロPだった時代も?
 「そうですね。僕はニコニコ動画世代なので、音楽の入り口としてボカロを聴いていたんです。米津さんを聴いた時は、それまで好きだったきれいなポップスとは違った変な音楽で、うわーってなったんです。それに今回あらためて自分のランキングをプレイリストにして並べて聴いてたら、ジェリー・ペーパーと〈ゴーゴー幽霊船〉に結構似ているサイン波のシンセみたいな音が入っていたんですよ」
――そこがつながりましたか。
 「あと、米津さんの姿勢も好きです。もともとライヴもしたくないくらいの人付き合いが不器用な方だったのに、作品を重ねるごとに誰かと共作したり、ライヴも増えたり、歌詞も素直になっていく。音楽をやっていくなかで変わっていくのが目に見えるのはすごくいいし、僕も素直になっていきたいと思ってるんです。丸くなるというわけではなく、自分なりの答えを見つけていく感じ」
――では3位は?
 「デヴィッド・バーンの〈This Must Be The Place〉(2020年)。もともとはトーキング・ヘッズ時代にバーンがやっていた曲ですけど、僕は映画『アメリカン・ユートピア』でこの曲を知りました。音楽とパフォーマンスがダイレクトに伝わってくる感じ。あの映画がきっかけで洋楽への感度が広くなって、いろいろ深掘りできるようになったんです。またあの映画を観る機会があったら、最後列で立って踊りたいですね」
――さっきも言いましたけど、もっと70年代のアメリカン・ロックが大好きな人なんじゃないかと思っていたんですよ。
 「長髪なのは、細野晴臣さんと、キイチビール&ザ・ホーリーティッツで長髪だった頃の貴一さんが好きだったからなんです。で、今、細野さんの名前を出したので、4位は青葉市子さんをフィーチャリングした〈悲しみのラッキースター〉(2017年)にします」
――オリジナルはアルバム『Vu Jà Dé』(2011年)収録ですが、こちらは『Vu Jà Dé』収録のセルフ・カヴァー版のほうです。
 「細野さんを聴いたのは『Vu Ja De』がはじめてなんです。青葉さんがこの曲を歌っていると知ってアルバムを聴きました。本格的に細野さんにハマったのはその2、3年後でわりと最近。『HOSONO HOUSE』(73年)や『TROPICAL DANDY』(75年)のサウンドの手作り感とか歌詞の素直な感じも憧れますし、その時行きたい方向にばーっと進んで、いろんなことをやっている姿勢も好きです」
――5位はどうしましょう?
 「エリック・クラプトンです」
――ここでクラプトン!
 「80年代後半のライヴ盤に収録されている〈Layla〉にします。ギターを始めた中2の頃に教わって、延々とこのアルバムだけを聴いていました。自分のなかにブルースの感覚はあまりないんですけど、この時練習して染み付いた手癖が今でもライヴで出てくるんです」
――ギターの神様としてというより、今の自分のきっかけとしての存在なんですね。では、6位にいきましょう。
 「坂本慎太郎〈あなたもロボットになれる〉のかもめ児童合唱団ヴァージョン(2014年)です。大学の時、バンド・メンバーが部室であの曲のMVの振付で踊ってたんです(笑)。あれもジェリー・ペーパーと似ていて、ふざけている感じなんだけど歌詞はシリアスな内容ですよね。坂本さんの歌詞も好きです。わかりやすいけどハッとする部分がある。僕もこういう曲を作りたいです。で、7位は、ケヴィン・エアーズの〈Town Feeling〉(69年)」
――ジェリー・ペーパーにインタビューした時、彼もケヴィン・エアーズが好きだって言ってましたよ。
 「本当ですか! うれしい。でも、僕はケヴィン・エアーズをすごく聴いてるわけじゃなく、このアルバムはKiQのやまのはさんが教えてくれたんです。中学生の吹奏楽でオーボエを吹いてたんですけど、この曲にはロックなのにオーボエが出てきて、え! と驚きました」
――やまのはくんは純粋にケヴィン・エアーズをおすすめしてくれたのに、杜和くんはオーボエに衝撃を受けたという(笑)。
 「そうなんです。ほかにもオーボエ入ってる曲があったら知りたいですし、いつかは自分でもやってみたいです」
――最後はちょっと駆け足ですが8位から10位まで教えてください。
 「8位はザ・レモン・ツイッグス〈Why Didn't You Say That?〉(2017年)。彼らにしか出せない自由さと初々しさですよね。初期はダダリオ兄弟が曲ごとにドラムを交替したりして、あの自由さを僕も持っていたい。そして9位はショパンです。ショパンの曲というより、作曲家フレデリック・ショパン全体。小学生の頃、音楽室で友達が弾くショパンの〈黒鍵のエチュード〉を聴いて、音楽をやりたいなと思ったんです。最初に好きになったのがクラシックで、そこから中学は吹奏楽部で、やがてギターを買ってバンドを始めて、という流れなんです。自分がやってきたことは結局、全部自分の影響になっていると思います。なので、10位は僕のアルバム『冗句冗談』(2024年)。僕はJ-POPの軸を持ってるんですけど、今のバンドは僕の変な発想をみんなでやるという感じなんですよ」
取材・文/松永良平
今回の未来のザ・ベストテン
1位
ジェリー・ペーパー
Kno Me
ジェリー・ペーパー
2位
米津玄師
ゴーゴー幽霊船
米津玄師
3位
デヴィッド・バーン
This Must Be The Place
デヴィッド・バーン
4位
細野晴臣
悲しみのラッキースター feat. 青葉市子
細野晴臣
5位
エリック・クラプトン
Layla
エリック・クラプトン
6位
坂本慎太郎
あなたもロボットになれる feat. かもめ児童合唱団
坂本慎太郎
7位
ケヴィン・エアーズ
Town Feeling
ケヴィン・エアーズ
8位
ザ・レモン・ツイッグス
Why Didn't You Say That?
ザ・レモン・ツイッグス
9位
フレデリック・ショパン
10位
井上杜和
冗句冗談
井上杜和
次点
ジム・オルーク
Eureka
ジム・オルーク
次点
ザ・ファンキーズ
Abraka
ザ・ファンキーズ
次点
『カウボーイビバップ』(アニメ)
Live Information
Live


■〈U.F.O.CLUB 29周年記念 井上杜和 presents “BIZARRE PARTY”〉
2025年1月31日(金)東京 U.F.O.CLUB
[LIVE]
井上杜和バンド
BROTHER SUN SISTER MOON
[DJ]
松永良平
[出展]
Megumi Yamazaki
OPEN 19:00 / START 19:30
前売り 3,000(+1drink 500)
当日 3,500(+1drink 500)
[ご予約]
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